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「うぁーー、くっそ。またSRキャラかよー! ガチャの排出率弄ってんだろ、このクソアプリ!! やめたやめた!!」
俺が今プレイしていたのは、サービスを開始してから四周年を迎えた大人気携帯ゲーム、"ブレインコネクト"だ。
その四周年を記念した、限定キャラが排出される特別なガチャに、今月の給料の大半を突っ込んだ俺は……盛大に爆死した。
この日のために、二ヶ月間にも及ぶモヤシ生活を続け、自作した神棚に毎日何十回も祈りを捧げたっていうのに。
「もういい。四年も付き合い続けたお前と別れるのは悲しいけれど……もう、限界だ」
そう、来月からは大物タイトルの美少女ゲームが新しく出るのだ!!
そのゲームで俺は……新しい恋を見つけるんだ……!!
「ってことで、ポチッとな」
俺はもう何の感慨もなく、四年もの間ハマり続けたアプリを消去した。
「んー、またガチャの為に金貯めなきゃなぁ。モヤシは飽きたし、今度は納豆にすっかな?」
俺はネットでオススメの節約メニューを探すため、再びスマホを眺めていると……メールの着信音が鳴った。
「ん? メール?? どうせ俺にくるメールは……あぁ、はいはい。やっぱりDMだわな」
どうせ俺は彼女も友達もロクに居ないですよ!
……はぁ。このまま俺は、二次元の女の子を追っかけて年老いていくのか……
いっそのこと、異世界転生でもしないかなぁ?
そんなことを思いながらメールを開く。
「ん? なになに? 『アナタも転生して新しい生活を始めませんか?』だって? ハハハ。新手の詐欺かぁ?」
メールのタイトルに惹かれて、つい本文を見てしまう。
……うん、どうやらウイルスは添付されていないかな?
【本文:新たに生まれ変わって、誰も知らない世界で旅をしてみませんか? <転生したい方はココをクリック!>】
「ん? 転生するのにトラックに轢かれたり、神に召喚されたりじゃなく?? まぁ押すだけならやってみるか? どうせ変なサイトが出てくるだけだろうし」
伊達に十数年、エロサイトという魔物が住む大海原を泳いできてはいない。
お陰様で架空請求の類が勘で分かるスキルはレベルMAXだと思う。
「そーれ、もういっちょポチ〜っとな」
その瞬間、携帯の画面には有り得ない量の光が溢れ出し、俺の身体を包み込んだ。
◆◆◇◇
「ん……ここ……は、どこだ?」
真っ白な空間に、バランスボール大の黒い球体が浮かんでいる。
ここが何処かも見当がつかないような場所だし、異世界に連れて行くというあのメールの内容は、どうやら本当だったようだ。
「でも、この浮かんでいる玉はなんだ? ……武器とか出てこないよな?」
モニターとか出てきて、黒いスーツを渡されて転送されたりしないよな? などと考えてドキドキしていると、なんと本当に球体に文字が浮かんできてしまった。
「ちょ、ちょっと待て!! 流石にバケモノと戦ったりするのは無理だぞ!?」
あたふたしている間に、浮かび上がった文字は増え、文章となった。
【これから転生先で使用するアビリティを、次の中から三つ選んで下さい。】
「おおっ!? チート貰えるんですか?? やったぜ、これで俺も無双系主人公だ!! チーレムチーレム!!」
予想外の高待遇に、俺は大喜びで表示されているアビリティの中から三つ選択する。
「やっぱり不老不死は外せないよな〜。もちろん、鑑定も必須だろ? あと一つは……転送かなぁ?」
他にも魔法や武器、身体能力といったチートはあったのだが、小説ネタで一番無双していそうなアビリティを選んでみた。
「寿命を気にして生きたくないしな。鑑定があれば金稼ぎはなんとかなるだろ? そして転送は……多分ワープとかだろ。危なくなればワープで逃げる。これで三つだ!」
球体に浮かび上がっている三つのアビリティの文字をタッチすると、画面が切り替わり【決定しますか? <ココをタッチすると転生を開始します>】と出た。
俺はもう転生後の世界で、どうやってアビリティを使って満喫するかしか頭に無く、無意識にタッチをしてしまった。
――選択されたアビリティを確認。最適化を始めます。……個体を認識。分析中……分析を終了しました。対象の再構築を始めます。
「な、なんだ? もう転生が始まったのか!? は、ははっ! はははは!! 待ってろよ、異世界の美少女達よ! 今いくからな〜!!」
球体から大量の光が溢れ、閃光が俺の身体を飲み込んだ。
……そして俺の意識も光に塗りつぶされるようにして、ゆっくりと途絶えていった。
「ん……終わった……か?」
どうやら異世界への転生は終わったようだ。
まだ目が慣れていないのか、周りがすごく眩しい。
流れ星のような光か何かが、シャワーのように降り注いでいるみたいだ。
「おっ! 身体が、凄く軽く感じるぞ!! 顔は変わったのかな? あ、しまった。イケメンになれるようなアビリティを選びたかったな。まぁ……そこは運に任せるしかないか」
今世の身体は、前世の運動不足だった頃と違って、まるで飛ぶように動かせる。
「やったぁ! これで不老不死なら、それだけでも転生した甲斐があったぜ!! 肩こりも腰痛も無い生活が……肩こり……腰、痛……あ、あれ?」
――ない。 ない、ない、ない!!!
――肩も、腰も、ない!!
「お、おいおいおい!! どうなってるんだよ、俺の身体は!? そ、そうだ。鑑定のアビリティがあるんだった。どういうことか、コレで調べてみよう」
俺は、頭の中で念じるように鑑定を使ってみた。
【鑑定発動。対象:自立学習型人工知能 鑑定結果:生体転生により電子頭脳化されたスマートフォン用プログラム。特徴として、プログラムが損壊・不全に陥った場合、自己修復機能によりクラウド上に無数にあるバックアップデータから、自動で回復を行う。更に、全世界のサーバを経由出来るため、理論上は永久に存在が可能。】
「はっ? 人工知能?? プログラム? ……お、俺……が……??」
【本プログラムは、ネット上のデータを参照・収集することにより、集積した様々な情報の利用が可能。また、プログラムを使用した者のあらゆる検索や質問に対応する。使用者はそれらの機能を用いることにより、プログラムへ無限に学習させ、鑑別処理を行わせることができる。】
「プログラムの使用者……鑑別処理……」
自動でネット上の情報を集めて、鑑定するってこと……か?
【また、特定の機器に固定されたプログラムではない為、ハードを選ばずに移動出来る。】
「は、ははっ……それはもう、無限増殖するウイルスみたいじゃないか……」
【なお、このプログラムはとあるアプリケーションツールのデータの収集・保管及び、ユーザー対応の為に開発された。試験的に無作為に選出したユーザーの中から、希望者に協力を要請。内、一名が要請を受諾。サービス利用開始となったが、直後に想定外のバグを発見。新たな希望者を採用する企画は永久に凍結された。現在、その一名のみがネット上を徘徊している。】
「……唯一の参加者は俺? 実験台のモルモット扱い……」
【しかし、現状その一名の修復機能及び鑑別処理能力で、どの程度の耐用が可能なのかを検討する研究は継続となった。また、この研究は対象が破壊されるまで試験される。】
「…………」
【鑑定結果は以上になります。では、誰もアナタを知ることもない世界での旅を、永遠にお楽しみください。今回は当"ブレインコネクト"プログラムにご応募いただき、誠にありがとうございました。】
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