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クリスはまた何か言いかけたが、それを飲み込み、大きくため息をついた。
「……悪い」
意外にも素直に謝罪され、オーウェンとコンラッドは目を丸くする。
「だぁーもークソッ!」
クリスはソファの背もたれの上に後頭部を置くように仰け反り、読んでいた本を顔の上に置いた。表紙には『王国騎士団流剣術基礎』と書かれている。
「こんなの八つ当たりだ。しょーもないマジで……」
「悩んでいるのか」
オーウェンの問いかけに、クリスは本で顔を隠したままくぐもった声で呟く。
「……お前らもバカだと思うか? 女が騎士なんて」
オーウェンはやはりそれか、と思った。
女性の騎士はかなり少ない。少なくとも王都本部の名簿にはクリス以外の女性の名前はない。騎士という職業は長い間男のものとされてきたから、同期の訓練兵の中にも性別を理由にクリスを嘲笑う輩が少なくない。実際、剣の腕前はそこまでいいとは言えないため反論することもできずただ苦い顔をする……そんなクリスを、オーウェンはこれまでの短い期間に何度も見ていた。
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