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お母さんの言葉に頷いてから私はゆっくりと立ち上がった。 そして歩きにくい靴を脱いで、芝生の上で裸足になる。 「私は翔子のように翔ることは出来ないけど、結ぶことなら出来るかな。」 「そうなるようにおじいちゃんが結子と翔子の名前を付けた。 だから結子は結ぶことが出来たじゃない。」 「私と翔子の名前、おじいちゃんが付けたの・・・?」 初めて聞いた話にまた驚いていると、お母さんが優しい顔で頷いた。 「おじいちゃんにとって“増田”は犬猿の仲であり親友でもあったからね。 “増田”と仲直り出来るキッカケになれるような子になるようにって、おじいちゃんの私情で付けられちゃったんだよね、結子の方は。」 「そうだったんだ・・・。」 「おじいちゃんにとっては永家の“家”の繁栄・継続よりもなによりも、“増田”と仲直りする方が大切だったの。 だから長女である結子の方に“結子”と名付けた。」 「増田君のおじいちゃんの婚約者を奪っちゃったんだもんね・・・。」 「うちのおじいちゃんはおばあちゃんのことが大好きだったの、ずっと前から。」 裸足で歩いていた足を止めお母さんの方を見ると、お母さんは困ったように笑った。 「おじいちゃん、モテモテだったのにおばあちゃんのことが密かに好きで。 犬猿の仲であり親友である“増田”の婚約者のことが好きになっちゃって。 他の女の子を選ぶことがずっと出来ない中、当時の増田の“主”から話を持ち掛けられて何年も何年も悩んで苦しんだみたいよ。 “増田”を選ぶか“好きな女の子”を選ぶか。」 「それで、“好きな女の子”を選んだの?」 「“好きな女の子”から言われちゃったからね。 “私が愛している人に力を与えて”って。 “今のままでは増田の“主”にはなれないから”って。」 「凄いね・・・凄い“愛”だね、それは・・・。」 「だからおじいちゃんは真っ黒になった。 “好きな女の子”だけではなく“増田”の為にも。 真っ黒にならないと出来ないことがこの巨大な“家”にはあるから。 それを“増田”も分かってる。 分かった上で向こうも真っ黒になってみせた。 深く愛した婚約者と“永家”が与えてくれた怒りの感情で、真っ黒になってみせた。」
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