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「DVされているんですか、先輩。」 DVしないんだかするんだかよく分からない発言をしてきた先輩に聞くと、先輩が凄く怒った顔になった。 「私、今の彼氏に精神的DVをされてたのよね。 やっぱり血なのかしらね、DVされるお母さんの血が私にも流れてるのよ。」 「DVされていたのにその方と付き合っているんですか?」 「仕方ないじゃない、それでも信之のことが好きだったんだから。」 先輩のその言葉に私は固まった。 この受付に立っていて固まることなんて1度もなかったけれど、初めて固まってしまった。 「信之・・・。」 自然と口から出てきたその名前に先輩が私のことを見てきた。 「そういえば信之って永家生命で2年間働いていたのよね、永家さん信之知ってる?」 「名字は・・・。」 「橘だけど、橘信之。」 その名前を聞いて、いつも私の隣にいた雪枝にも負けないくらいの美人なこの先輩を見詰める。 「少しだけ知っています・・・。」 「そうなんだ? 信之、営業成績は日本でも良かったみたいだからね。」 「日本では? 今、信之君海外にいるんですか?」 「そうね、25歳になる年に日本を出たの。 なんでもお父さんが大きな会社の専務だったらしくて信之にも婚約者が小さな頃からいたのよね。 非の打ち所がない完璧な女の子。 そう信之から言われてたから永家さんを見るといつもイライラしたのよね。 私のお母さんに似て綺麗な心を持ってそうな子だったし、“こんな感じの子かな”なんて思っちゃって。」 「そうだったんですか・・・。」 先輩の言葉にそれだけしか返せなかった。 永家ホールディングスで専務として働いていた信之君のお父さん。 信之君が消えてしまってから信之君のお父さんは永家不動産の代表取締役に就任をした。 信之君が私の婚約者なのではという噂はそれで消え去った。 消えた信之君、なのに父親は永家不動産の代表取締役になったから。 そんな信之君のお父さんは今、翔子と一夜君を育てる為に永家不動産に残ってくれている。 翔子からの“永家ホールディングスの専務に戻してあげようか?”という言葉に大笑いで首を横に振った。 昔から信之君のお父さんは翔子のことが大好きだった。 だからこそ信之君のお嫁さんになってくれればと思っていたと思う。 そう思いながら、そう願いながら2人を見守り続けてしまった。 私と翔子の家庭教師としてのポジションを崩すことなく、信之君にいつか翔子が永家の“主”として教育してくれることを願って。 そして今は真っ黒にもなった信之君のお父さんが翔子と一夜君についている。 息子が消えると分かった時も息子を止めず、それを私のおじいちゃんやお父さんに報告することなく黙りを決め込んだ信之君のお父さん。 翔子と一夜君にはそんな人までついていて、そして翔子には“繋がり”がある。 学生時代から学校のお坊っちゃんお嬢様と“仕事”をしていた翔子。 その子達が今では自分の親の会社や親から離れた会社の元で上に登りつつある。 永家の“家”は止まらない。 的場製菓を買収出来なかったけれど、永家の“家”は止まるどころか翔ていく。 増田ホールディングスのことが心配にもなってきた時、先輩が言った。 「“楽しく生きる為に日本から出るけど、付き合えるようになったら連絡する”なんて言ってたのに何年も連絡を寄越さないで、あんなの精神的なDVよね。 私今年で30になるんだけど!!」
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