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すっかり暗くなった道を増田君と並んで歩く。
お安い洋服でコーディネートをした綺麗目な格好、お安い低めのヒールのパンプスで。
今まで買っていた服は何だったのかと思うくらい、この世界にはお安いのに可愛い洋服が沢山売っている。
それでコーディネートをするのにハマって、掘り出し物を見付けては増田君に披露している。
増田君に右手を優しく引かれ、歩きやすい靴で増田君の隣をしっかりと歩く。
夜で暗くなった道だけど楽しくて嬉しくてずっと笑ってしまっている。
「お菓子、そんなに食べられる?」
左手に持っていた大きな紙袋。
そこには沢山の的場製菓のお菓子が入っている。
「先輩、帰りに沢山買ってくれたよね。
信之君のオススメが多過ぎてビックリしちゃった。」
「そこまで沢山だと、やっぱりカラフルな夢が詰まって見える。」
増田君がそう言って、懐かしそうな顔で私が持つ紙袋を見下ろした。
「転校して和の家に初めて行った時、和のお母さんが的場製菓のお菓子をバスケットに沢山詰めてくれてたんだ。
それを見て言ってくれた、“カラフルな夢が詰まっているみたいでしょ?”って。
“子どもはカラフルな夢を沢山見ていいんだよ”って。」
「そうだったんだ。」
「“ゆきのうえ商店街”に行けなかった俺にとって、的場製菓のお菓子は色鮮やかな夢を見せてくれるお菓子で。
大学で和とバイトを初めてからは、そんなカラフルな夢を作る側の仕事が出来て。
俺は“ゆきのうえ商店街”と同じくらい的場製菓の会社が大好きなんだよね。」
「うん、知ってるよ。
的場製菓の会社の人達みんな知ってる。
的場製菓の社長より、的場製菓の副社長より、増田君が誰よりも的場製菓のことを好きでいることは社員全員が知ってるよ。」
だから的場製菓が増田ホールディングスに買収されても、みんな驚きはしたけれど動揺はしていなかった。
増田ホールディングスの社長に増田君が就任していたから。
それにも関わらず増田君は副社長の秘書のまま的場製菓に残っていたから。
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