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それは俺も薄々感じていたことだった。
ずっと一緒にいることが当たり前になって、求めることも求められることもなくなって、本当にこのままでいいのかって漠然とした不安に襲われたんだろう。
わかるよ。だから俺も動くことに決めたんだ。
彼女に言われるまでもなく、俺はそう思ってるんだから。
「あれ、どうしたの」
何も言わず布団から這い出た俺に初音は不思議そうに声をかける。
俺はそれに答えることなく、床に散らばる衣服を彼女に放り投げた。
「わ、なに急に」
「服着ろよ。外寒いから」
「え、どこ行くの? もう夜中だよ?」
俺は皺だらけのシャツに袖を通す。まだ戸惑いながらも初音は肩から上だけを布団の外に出して、自分の周りに散らばっている服を拾った。
「決めてない。ちょっと歩いて、できれば人の少ないところがいい」
「ここより人が少ないとこなんかないよ」
彼女の言う通りだ。
ここは二人だけの日常がある場所。この部屋には俺たち以外の人は入り込めない。
けど、と俺は首を横に振る。
「ここじゃダメだ」
「なんで」
「鍵を掛け忘れそうだから」
「なにそれ」
ここじゃない。どこか違う場所に行きたかった。
きっとその場所はこれから訪れる当たり前の日常に流されて、忘れ去られて、それでもふとしたときに思い出してはまた二人で立ち寄ってしまう。そんな特別な場所になるはずだ。
できればそれは日常の外側に置いておきたい。
「……確かに俺、服を着ることについて今更考えたことなかったけどさ」
革のベルトを締めあげる。金属のバックルが、かちゃり、と音を立てた。
他よりも広がったベルト穴にツク棒を通すと、履き慣れたデニムパンツのウエストが俺の腰にとても自然に巻き付いた。違和感のなさが心地いい。
当たり前のようにそこにいて、当たり前のようにフィットする。
それは決して悪いことじゃないはずだ。
「お気に入りの服を着て過ごす時間は結構好きだよ」
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