居場所

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居場所

九月の中旬は、八月の猛暑程ではないにせよ、エアコン不要という訳にもいかず、サル達の健康管理にも、引き続き注意を払う。 そして、九月は連休も続く事から、より多くの来園者が見込まれる月でもあり 絵美の担当するワオキツネザル達の暮らす棟においても、開園と共に、一目、ワオキツネザルを見ようと、多くの親子連れが集まってきていた。 「すごいね。あんな高い所にいるよ」 「あっ、下に降りてきた」 サル達の行動について、母と子が話している。 絵美は、親子達に、自身が担当する動物に限らず、ありとあらゆる動物達を見て、親子間での思い出を増やしていって欲しいと思う。 「あの時はこうだったね」「すごかったよね」 と門外に出てからも会話は弾む。 たかだか動物園に連れて行ってもらったという些細な事であっても、 親に何かをしてもらったという記憶は、頭の片隅に残り、その後の人格形成 にも良い影響を及ぼすはずだ。 「天宮には何とも言えない大人の魅力があり、身のこなしもスマートではあるが、彼に見合う女性は他に幾らでもいる。 サル達と天宮を同列に並べる訳にはいかないが、私にはやはり二兎を追う事は出来ない」 絵美は、サル達の愛らしい姿に歓声をあげている子供達を見 「彼らに元気なサル達の姿を届けるのが今の私に与えられた仕事」 と、何かに誓いを立てるように静かに微笑んだ。
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