躍る屍影は、ただの幻影

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306 「今回の件は黙認します。職位を利用した脅迫は、なるべく控えてくださいね」 「うぅ・・・蓮ちゃん・・・・・・!」  正面から、会計が抱き着いてくる。  形式上注意する必要があったのだけど、強く言い過ぎたかな? 「何故ヤツを庇った? 俺達の証言が信用に値しないとでも言うのか・・・?」 「会長達は結弦くんに傾倒しすぎているので、全面的に支持出来ないのも事実です」  風紀委員会は校則と規則を元に判断するけど、時には状況に応じて柔軟に動く必要がある。  あの場で生徒を罰していたら、生徒会と風紀委員会の評判が悪くなっただけだろうし、何より故意に水を掛けた証拠がない。  周囲の生徒が見ていないと、否定していたのが致命的だ。疑わしきは罰せずだよ。 「だが、執行役員のお前なら分かるだろう? アイツらが嫉妬心から結弦に嫌がらせをしていることくらい」 「もちろん存じていますよ。その場に居合わせたこともあります」 「なら――」 「ですが、それと今回の件は別問題です。容疑を掛けられた生徒は謝罪もしていましたし、証拠が無い以上罰することは出来ません。風紀委員の目撃者がいれば話は別でしたが・・・周囲に居た方が否定している以上、追求は難しいです」  風紀委員会の規則に準じて、風紀委員の証言には証拠として大きな価値がある。  更に重要なことがあるとすれば、風紀委員会の委員は任意でボディーカメラを身につけている。  トラブルを回避する為だ。  俺が見ていれば、故意に掛けたか否かの判断が出来ただろうけど、その時は取材を受けていた。  いつもならカメラを付けた鳥たちが上空から監視をしているので、録画を確認すれば済んだ話だけど、今は母さんに預けている。  委員長も歩くんも居なかった以上、証言出来る人物なんて居るはず―― 「あ、そういえば副委員長が居ましたね」 「副委員長がどうしたのぉ〜?」  俺が取材を受ける前に、副委員長は呆れた様子で騒ぎの方を見ていた。  その後のことは分からないけど、注視すると言っていたので何か知っている可能性は高いだろう。  ホールに戻って確認を取ろうと思ったが、会計が絡みついて身動きが取れない。 「すみません、離していただけますか?」 「えー! 俺も連れってってよ〜!」 「俺様も連れて行け。瑞希が何か知ってるかもしれないんだろう?」 「面白そうな話だが、俺は結弦が心配だ。そっちは任せたぞ」 「えぇ・・・任せられても困ります」 「ゆ・・・ずる・・・・・・痕、残る・・・・・・俺・・・着替え・・・・・・・・・」 「私は結弦を保健室に連れて行きます。神界さん、後は頼みましたよ」 「・・・・・・・・今回だけですよ?」  毬藻くんが静かなので様子を見てみると、水のかかった顔の一部が赤く腫れ上がっていた。  どうやら中身は熱湯だったようだ。  結弦くんは悲鳴をあげるわけでもなく、静かに頷いて副会長と保健室に向かった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・それでは、行きましょうか」  視界から毬藻くんが消えたのを確認して、会長と会計を連れてホールへと戻る。  熱湯、火傷か・・・・・・。  つい先日、毬藻くんを守ると約束したのに、俺は約束を違えてしまったことになるのだろうか。 「あはは、これは問題だな――」  本当に関与するつもりは無かったんだけど、毬藻くんが害されたと知った以上仕方がないよね。  このままじゃあ・・・・・・神界家の人間として、俺の顔が立たないだろ?
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