躍る屍影は、ただの幻影

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304 「もっと俺の弟について聞いてくれても良かったんだけどなぁ・・・・・・」  弟達のことなら、原稿用紙二千枚に及ぶくらいには話せることが沢山ある。  グラスに注がれた飲み物の水面に、弟達の姿を思い浮かべていたら、いつの間にか空になっていた。  無意識のうちに、飲み干してしまったみたいだ。  新しく取りに行こうかとも思ったが、その前に会長達がどうなったのかを確認する。  視線を大勢の集まる場所へと移すと、険悪な雰囲気が漂っていた。 「いい加減認めたらどうだ? 何も無い場所で転ぶことなどあるはずがないだろ?」 「会長のおっしゃる通りです。仮に転んだとして、その液体が結弦に"だけ"掛かる確率がどの程度かご存知ありませんかッ!?」 「故意に俺達を避けたとしか、思えねぇよなぁ?」 「うっ・・・僕は本当にそんなつもりじゃ・・・ッ!」  生徒会役員に囲まれた一人の生徒が、涙を流して、口元を抑えている。  その右手には、空のカップを持っていた。  傍から見ると、生徒会役員が無理やり生徒を尋問しているように見える。  それに、あの生徒は確か・・・・・・・親衛隊の幹部をしている先輩だったかな?    何度か見かけたことがあるなぁ・・・。 「あの転校生がたまたまその先に居たのが悪いんじゃないの〜?」 「生徒会役員の皆様は運動神経が良いもん。鈍臭いアイツが避けられなかっただけだよな〜?」 「アイツのせいで生徒会役員の皆様方に責められて、ホント可哀想・・・・・・」 「自業自得なのにね〜」 「さっさと死ねばいいのに・・・・・・」  生徒達の会話や現状を元に、大まかな状況は理解した。周囲の反応は、あまり良くなさそうだな。 「さて、俺はどう動くべきか」  委員長はこの場を去ってしまったし、周囲を見ても動けそうな風紀委員は見当たらない。  下手に執行役員である俺が介入すると、事が大きくなりそうだしなぁ・・・・・・。  そもそも、水が掛かった程度の話では、執行役員が直接介入する理由としては足りないしね。  現行犯で"故意に水を掛ける瞬間"を多くの生徒が見ていたならともかく、  生徒達の意見が親衛隊の先輩側に傾いている以上、現段階で俺が関与するのは難しいだろう。  申し訳ないけど、今は様子見かな。
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