躍る屍影は、ただの幻影

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307  ホールに戻ると、副委員長の姿が見えた。  副委員長は謎が多い人物で、そこそこ付き合いのある俺でも知っていることは少ない。  委員長から信用を得ていて、淡々とした口調が特徴的だ。いつも毅然とした態度を保っている。  理事長に対しても、何処吹く風で抗議出来るくらいには精神的にも強い方だ。  成績も優秀で、察しがよく勘も鋭い。  副委員長は俺が連れてきた会計と会長を横目で見ると、目を伏せてため息を着いた。 「"副委員長"として、私は本件に関わるつもりはありません」 「お前がそう言うということは、何か裏があるんだな? 風紀委員が事件を黙認するつもりか?」 「あなた方が私に何を求めているのかは存じています。しかし、それはあくまで私の主観に過ぎず、私の主張のみを証拠とするのは公平性に欠けます」 「風紀委員の証言が有力な証拠になると定めたのは、お前達風紀委員会じゃなかったか。結弦が被害を受けている以上、こっちも引くつもりは無い」  会長と副委員長の間に、不穏な空気が流れる。  双方共に意思は固いようで、どちらも一歩も譲るつもりは無いみたいだ。 「生徒会長、あなた方は風紀委員会を頼り過ぎではありませんか?」 「はっ・・・俺様がいつお前達を頼った?」 「一人の生徒に夢中になるあまり、周囲に与える影響も考えずに親衛隊の暴走を許したばかりでは? 滞った生徒会業務を一時的に委員長が負担していたことをご存知ないようですね」 「・・・・・・・・・・・・・」 「うわぁ、ぐぅのねも出ないねぇ・・・・・・」 「風紀委員会は事件に対して、公正かつ迅速に、適切な対処を行っています。そして、先程の件は"解決済み"であると執行役員の神界さんに認定されました。再捜査申請及び不服の申し立ては規則に則り、委員長または公正審査会へお願いします。これ以上――隙を・・・醜態を晒さないでください」  副委員長は全てを言い終えると、俺に目配せをして背を向けた。  目配せの意味は――俺の発言を利用して、会長の申し出を断ったことに対する謝罪みたいだ。  俺の発言に"捜査を打ち切らせる程の力"は無いし、あくまで個人的に認識すると言っただけだ。  副委員長の言い分は、なかなか正当とは言い難い言い訳に近いものだった。  それに、副委員長は胸ポケットにペンを入れていた。あれは風紀委員会のペン型カメラだ。  わざわざ関わるつもりは無いと言ったのは、なにか事情があるからだろう。  いつもは身に付けていないのに、今日だけ付けてきた理由も気になるなぁ。  副会長から聞いた情報といい、まるで最初から今日起こる事を知っていたみたいだね。
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