躍る屍影は、ただの幻影

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309 「・・・・・・キスしても良い?」 「良くないと思います」  生徒達を見て少しぼんやりしていたら、会計が顔を近づけてきた。  手のひらを顔の前に出して、視線を逸らす。 「そろそろ下ろしていただけると助かります。委員長と副委員長に、直接弁解していただけるのならお好きにしていただいても構いませんが」 「それってダメってことじゃ〜ん・・・・・・前は簡単だったのに、ガード固くなりすぎぃ・・・」 「その言い方は語弊があります」  あの時はまだ学園に来たばかりで、まさか初対面の相手にキスされるとは思わなかったからね。  今となってはこの学園の本質も分かって、注意するようにはしている。  テーブルに置かれたグラスを二つ手にして、ひとつを会計に渡す。 「結局、副委員長の協力は得られませんでしたね」 「うん、そうだねぇ。なんか様子もおかしかったし、もしかして何か知ってる〜?」  いつも通り、ヘラヘラとした笑みを浮かべる会計だが、内心では俺を探っているみたいだ。 「はい。副委員長が今回の件に対して消極的な理由は、把握しています」 「ずいぶん素直に教えてくれるんだねぇ〜? やっぱり、会長が言ってた"借り"があるからぁ?」 「聞こえていたんですね。確かに借りはありますが、関係無いですよ」 「じゃ、俺が相手だから教えてくれたって解釈しよっと・・・・・・」 「・・・・・・?」 「なんでもないよ、蓮ちゃんは面白いね」  首を傾げると、会計は笑みを浮かべて俺の頬に口ずけた。  何が面白いのかは分からないけど、喜んでいただけたようで何よりです。 「そっちの笑顔の方が似合っていますよ」 「え、そうかなぁ? 俺は蓮ちゃんのホントの笑顔、いつか見てみたいけどねぇ・・・・・・」 「あはは、今も本当の笑顔ですよ」 「そういう意味じゃないんだけどぉ・・・」  人の表情には敏感だけど、俺の笑顔と他人の笑顔に一体どんな差があるのだろうか。  表情なんて、他者に見せるために浮かべるものに過ぎないというのに。
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