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 ──じゃあ、わたしが薫を暖めてあげる。  そう言ってわたしは(サント)パルーシアの制服の上から、彼女の後ろから思いっきり力を込めてハグをする。耳元で、尻尾(しっぽ)、とささやくだけで、薫は抵抗する。 「だめー! そんなこと言われると尻尾出ちゃうじゃない」  ──いいじゃん、尻尾だってどこだって減るものじゃないし!  そう、薫は小悪魔(コケット)、本来ならうちの部隊(アンティセプティック・チーム)の凄腕スナイパーだ。とはいえ、射撃スキルとはうらはらに、いかにも小悪魔系の代名詞のような、つの、尻尾、羽根という翼というか……を滅多に出さない。敏感すぎて出せないのだそう。それに、出すとすぐわたしが触りたがるから。可愛いな。    いつまでいちゃこらしているのよ! と隊長の小佐野部長があきれたように口を挟む。 「それにしても、来栖(くるす)さんのお父様がどんな南瓜(かぼちゃ)を持って来てくださるか、とっても楽しみだわ」  小佐野部長、薫やわたしよりも学年一つ上だ。つまり中等部三年生。三年生の生徒は小佐野部長以外、アンティセプティック・チームにはいない。 「もう南瓜のデザインは考えてあるのですか、隊長」と、一年生の碧ちゃんが訊く。  それがまだなのよ、と小佐野部長。 「いつもなら、民間軍事企業(PMC)のお偉いさんと打ち合わせの最中にでも浮かぶのにね、まあいいわ。そこは来栖さんのお父様がくださる素材に期待よ」    ちょうどなにげないおしゃべりが〈アンティセプティック・チーム〉の部室に飾られた、美しい鶏頭(けいとう)の紅い花とまじってゆく、そんな放課後。  実際には誰もが部室ではくつろいでいる。いきなり軍事行動へ注文に応じて赴く可能性があるとはとても思えない。  そんななか、こうした心配りはうれしい。飾られた鶏頭の花はたぶん薫が聖パルーシア学園内のお花屋さんで買ってきたのだろう。
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