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 (サント)パルーシア学園の滑走路から、特殊部隊〈ブロードキャスト・チーム〉と〈コットンキャンディ・チーム〉を載せた国防軍のC-2輸送機が、蒼空に創られた巨大な魔界ポータルを目指して離陸してゆく。  輸送機と航空管制塔(グラウンド・コントロール)の交信が部室に流れている。「ご安全なよいフライトを、オーバー・アンド・アウト」とたぶん高等部の生徒だろうか、パイロットに告げていた。空にできた魔界ポータルが消えるとそこには西陽(にしび)に映えるひつじ雲が広がっている。    ごつい広帯域受信機(リグ)は、聖パルーシア学園中等部の特殊戦闘部、コードネーム〈アンティセプティック〉の部室の雰囲気を乱すことなく機材ラックに載せてある。パワーアンプ、メインアンプ、SACD対応のCDプレイヤー、カセットデッキ、グラフィック・イコライザーなどなどと一緒に。  これは〈アンティセプティック・チーム〉の部長、小佐野美潮(みしお)の趣味だった。    広帯域受信機をオフにすると、たまたま手のあいていた、中等部一年生の六花鐘(りっかしょう)碧砂(へきさ)ちゃんがレコードの棚を調べ、一枚選ぶと慣れた手つきでトーレンスのターン・テーブルに載せる。  アル・ヘイグのピアノ、そしてジャミール・ナッサーのベース。ドラムレスなのにとってもグルーヴィーなアルバム、「マイルストーンズ」が部室の空気を潤してゆく。  聖パルーシア学園ではもうとっくに肌寒い。二学期は、はじまるや一散に冬へと突っ走る。わたしの心を読んだかのように、なかよしの葉桐(はぎり)薫がぽつりと「寒いよね」と(こぼ)す。
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