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二杯目、小休止
目が覚めると店主が俺の顔を覗き込んでいた。
「うわっ、な、何ですか!!」
驚く俺を他所に店主は微笑し、俺の目元を撫でる。
「うん、少しだけ調子が良くなったようで何よりだよ。
それで君に一つ頼み事をしてもいいかな?」
言われた通り体が軽い。
「いいっすけど…は、お、俺もう行かないと仕事が!!」
窓の外を見ると明るくなっている。
「まあまあ、君の職場にはもう電話をして許可を取って今日限りで辞めることになった。」
今なんて言った?
この目の前の店主は俺の会社に電話して勝手に辞めさせただと?!
「ふ、ふざけんな!
俺は…やっと親元を離れて自由になれたと思ったのに!!」
涙を流す俺に店主は優しく肩を叩く。
「まあ、落ち着きたまえよ。
あのままサラリーマンを続けていたら君は駅に飛び込んで死ぬか病気になって生き地獄を味わうか二択だったんだ。」
「でも、それでもあんたのやったことは無茶苦茶だ!!
大体、何様なんだお前!!」
その問いに店主は少し首を傾げて口を開く。
「茶師は資格者こそ少ないが天皇陛下に認められた由緒正しい国家資格だ。
その一門であるグレイ一派の言葉に耳を貸さない企業はないだろう。」
「まーた始まったにゃ。
ご主人様の自慢話。」
猫が喋っているという事実に俺は面喰らう。
「何だ、精霊くらい見たことあるだろう?
君たち風にいえば幽霊や妖怪って言った方が馴染み深いかな?」
クスクス笑う店主に俺は詰め寄る。
「ね、猫が喋って…それより茶師ってなんだ?聞いたこともない…。」
「ふむ、まあ、公に出てはいない職業だからな無理もないな
それより、朝ご飯はパンとご飯どっちがいいかい?。」
カウンター奥の厨房へ行きながら店主は訪ねる。
「…ご飯でお願いします。」
「アレルギーとか苦手なものはあるかい?」
店主の問いにないと答える。
何もしないで待つのは心苦しいので上着を脱いで腕まくりをして厨房へ入る。
「君はお客さんなんだ。座っていていいんだよ。」
「いえ、じっとしてるのもなんか悪いなって思うんで手伝わせてください。」
そう頭を下げると今度は店主が面喰らう。
その後に少し笑って指示を出してくれるように。
「じゃあ、箸を並べてご飯を盛ってくれるかな?」
「は、はい。」
彼の言う通り、二人分のお茶碗にご飯を盛る。
そうしている間に卵焼きを作り、魚を焼いて味噌汁を煮てテキパキと朝ごはんが作られていく。
ホカホカと湯気の立つ和食の朝ごはんにごくりと喉が鳴る。
「さあ、ご飯を食べよう。
サコン、君は宣言通りカリカリだけだ。」
そう言ってテーブル下に器を置いてカリカリを出す。
「んなぁー、酷いですにゃ。」
「仕方がないだろう?
使い魔が縛りを破った以上、契約者は罰を与えないと君達は増長して手がつけられなくなるとマダムから聞いているからね。」
にゃーにゃー喚きながらサコンと呼ばれた猫はカリカリを食べる。
食事は穏やかな雰囲気で進む。
「食べながらで悪いが耳だけ傾けてくれ。私がなぜ君に会社を辞めてもらったのか結論だけ話そう。」
そう言って彼は箸を止めて話し始めた。
「我々、茶師という職業は医師みたいに研究も行っており、その成果を発表する学会もある。
だが、それはメインではない。
メインは作法、味覚、嗅覚そして品位が試されるティーパーティー君たち日本人風にいえば闘茶(とうちゃ)だ。」
闘茶といえば日本史で確か室町時代に流行った物だと習った気がする。
「…ただ茶をのんで銘柄を当てろって言われたってどれも一緒でしょ。」
俺はコンビニで買えるお茶以外飲んだことない。
それに喫茶店にもあまり立ち寄らない。
そんな味のわからないやつに助手を頼むなんて正気の沙汰じゃない。
「コホン、ただお茶を飲んで選ぶだけなら君はなぜ茶席には作法や礼節があると思う?」
店主は仕切り直しだというように咳払いをする。
正直に言ってそんな格式貼った席に招待された経験がないのだ。
「そりゃ、相手を不快にさせないため?」
「実に惜しい。
正解ではないが的を得た答えだ。
正解は自分を謙遜し、相手を敬って見た目的にも楽しんでもらいたいというのが茶席のモットーだ。
アシスタントがいればいるほどこの茶席でのやるべき事は減るだからこそ何も知らない素人である君が必要だった。
だから私の弟子兼助手にならないかい?!」
鼻先がくっつきそうなくらい顔を詰め寄られる。
綺麗な翡翠色の瞳が光り、俺は萎縮する。
(美人に詰め寄られるのってこんなに威圧感があるんだな…。)
ここでノーといようものならその大きな目が釣り上がること間違い無いだろう。
無職になったのはこの人のせいだし、ここは喫茶店だ。
飲食店なら給料はそれなりに出るだろう。
「…はぁ、雇ってもらえるならいいっすよ。」
「本当かい?!いやーありがとう!!
あ、申し遅れたね、この喫茶店「アカシア」の店主アールだよろしく頼む。」
店主もといアールさんの差し出された手を俺も握る。
「よろしく、俺は田中 茶一(たなか さいち)っす。」
こうして俺は数奇な出会いによってとんでもないお茶の世界への入り口だったんだと思い知ることとなる。
間
イギリス、とある宮殿にて。
豪奢な空間で喪服を着た若い女性が優雅に紅茶を飲んでいる。
「ふふっ、どうやらアール坊やが動くようね。
いいわ、存分に叩きのめしてあげる。」
綺麗な顔を魔女の様に歪めて女性は高笑いをあげる。
【To be continued】
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