新米看護師と毒舌患者

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それから少し経った夜。 私と彼は、屋上に居た。 月はこないだより随分と肥え、半月と満月の間くらいの、レモンみたいな形をしている。 空はよく晴れていたが、月が明るすぎて、星はまばらにしか見えない。 「どう?TAKURO🏴‍☠️。少しは何か思い出した?」 「その名で俺を呼ぶんじゃねえ、真面目に死にたくなる」 車椅子を押す私が、せっかく優しく話しかけてやっているのに、彼はそういって毒づいた。 あれから、彼の素性を裏付けるため、かの代表作の出版に携わった担当の方に面通しに来てもらった。 “うん、間違いないよ〜。イヤ〜、TAKURO🏴‍☠️(ドクロ)ちゃん、元気してたー?ねね、またいいの書けたら持ち込んでヨ⭐︎b(オヤユビ) え、記憶喪失なの!?マジでwwww(笑)” ひどく軽いノリの彼を見送った後、TAKUROはさらに深く打ちのめされていた… 何故なら、 その彼に本名(=吉元拓郎(よしもとたくろう))を教わっても、家族がお見舞いに来てくれても、(これで入院費を取りっぱぐれることはなくなったと、師長はご機嫌だったが)やはり、本人は何も思い出せなかったから。 「…なあ、松井氏」 「なあに?TAKURO🏴‍☠️(ドクロ)」 「だから、その名で呼ぶのはやめろ! その(ドクロ)もだ! 俺、せっかく松井氏が思い出してくれて、色々分かったのに、ずっと頭にモヤがかかってるみたいな感じでピンとこなんだ。 自作だという小説も、読んでも嫌悪感しか湧かないし。 やっぱりさ、そのラノベ作家は別人なんじゃないかな?実はこれタイムリープで、もう何回目かの…」 「うん、違う」 きっぱり否定してやると、彼はガックリと頭を垂れた。
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