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「はっ、阿保か。あるわけないだろうが、そんなこと」
包帯ぐるぐる巻きでベッドに横たわる男は、ボロボロのみすぼらしい姿にそぐわぬ態度で自信たっぷりに言い放った。
「ぐっ、でもっ!」
見事なまでの全否定に、私は唇を噛み締める。
その様に、ご満悦の様子で彼は続ける。
「考えてもみろ、超金持ちイケメン社長だのなんだのが、"冴えない引っ込み思案"だの、"アラサー干物"だのを相手にするか?
背景だそんなの、視界にすら入らんわ」
「でもそれは…」
「いいか?まともな会社の社長は、大概60から80までのジジイ。2、30代イケメン社長なんてそうは居ない。いたとして、たまたまヤマ当てて、金配って歩いてるような胡散臭い奴だ。で、そんな奴は港区のモデルだタレントだ、こなれた女のケツ追っかけてるもんさ」
「うぬぬ…」
いや、この人は患者さん。入院で心が荒んでるだけ。労わってやらなくては。
なんとか思い直し、私は笑顔を繕った。
「あ、でもね。借金による偽装結婚といったジャンルもあるんですよ」
「偽装結婚、それこそ意味不明だ。考えてもみろ、結婚しないと親が赦さない、だからどこの馬の骨とも知れない女を連れてくる...
それを許す親なら、最初からそんなこと言わないだろうが。バーカバーカ」
まるで小学生のガキのような嘲りに、とうとう私の寛大な堪忍袋もはち切れた。
「はあぁぁぁ?!
さっきから大人しく聞いてりゃなんですか。
あのさ、フィクションなの。願望なの妄想なの!現実がしょうもないから夢みるんでしょーが!
大体、それを言ったら。
あなたがそこに置いてる、男向けラブコメ」
「な、なんだ。コレは我が敬愛する、みぞもと☆那智先生の神作だぞ。貴様のような奴に愚弄される筋合いは…」
「ご都合主義は一緒だっつってんの!
冴えない金なしの童貞で、優しいだけが取り柄の男が!学校一の美少女だの、生徒会長だの、金持ちスポーツ万能美女にモテまくる状況なんかないっつの!
世の中そんなに甘くないっ」
「ぐっ、だから、主人公はとあるきっかけでチートな異能を」
「チート!
そのチートってのが気に入らない。
そんな能力、他力本願じゃないですか。なんの努力もせずに、ある日偶然に力を授かる。強くなりたきゃ修行しろっつの。対価なしに成功報酬を得ようとするな!!」
「く、くそぉ〜〜、きさま病人の夢を…それでもナースか、白衣の天使か!」
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