運命の出会い

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運命の出会い

「趣味とは関係ない話題で誘って、また振られたら怖いのよ」 非難するような口調の中に、どこか悲しさを滲ませていることに、女性は気付いていた。 そして同時に、男性の隣の椅子に、かなり大きなバックが置いてあることに気付いた。 「…あぁ、あの荷物?」 視線を追った少女が答える。 「今から、車を借りて美術館に行こうとしているみたい」 気分転換というか、現実逃避というか、とにかくじっとしていると考え込んでしまうらしい。 「でも、チャンスは少ないわ」 少女は困った表情を浮かべた。 「彼だけじゃないの」 「え?」 「アタックされているの」 「別の男性に、ですか?」 「そう」 だからここで勇気を出さないと、運命の赤い糸だって切れてしまう。 少女が両手の指を絡ませるようにして、手を合わせて応援する。 オープンテラスに座って一時間、男性はメールの文面を消すことを辞めた。 突然、男性の携帯電話が鳴った。 メールの送信から、五分後のことだった。 慌てて耳に当てるが、もしもしと言ったはずの声がかすれてしまう。 『ごめんなさい、突然電話しちゃって』 聞こえてきたのは、懐かしく感じるあの声だった。 彼女は映画の誘いを見て、電話をしたのだと言った。 「忙しいかな、とは思ったんだけど…」 彼はそう言ってから、ふと初めて会った日のことを思い出した。 お手伝いしましょうか、と思わず口をついて出たあの日。照れや誤魔化しもなく、素直な言葉を伝えられたではないか。 「この間話していた映画、まだ行っていないのなら、やっぱり一緒に行きたくて」 頭で考えていた時より、言ってしまえば簡単なものだった。 一瞬の間のあと、彼女の柔らかな吐息が遠くに聞こえた。 「え、今から?」 彼が立ち上がった。倒れそうになった椅子が、なんとか踏みとどまる。 「うん、うん、大丈夫」 慌てて荷物をまとめて、肩に背負う。 「いや、いいよ。えっと、こっちから迎えに行くね」 会った時の、彼女の表情が想像できる。 きっと、何故そんなに大荷物なのだと笑われるだろう。その時は素直に、今日の予定を変えて来たのだと言ってしまおう。 自分の予定なんて、彼女との予定の前では無いも同然なんだ、と。 それを思うだけで、ようやく彼の表情が明るくなった。 「またあとで」 「…私の出番はないようですね」 女性は肩をすくめて見せた。男性の背中を見送りながら、少女は大きなガッツポーズをする。 「やったわ!」 「おめでとうございます」 「それじゃあ、あたしが行くね!」 少女は背中の翼を広げた。 「えぇ、お願いしますね。恋の天使さん」 「その恥ずかしい呼び方、やめてよぅ」 振り返りながら、パタパタと手を振る。 「十年ぶりのお話、楽しかったわ。貴女もお仕事頑張ってね!」 「ありがとうございます」 女性は微笑みながら、少女が彼の向かう方向へ飛び立つのを見送った。 「私も行きましょうか」 肩に落としていた黒いフードを、そっと被る。 満足げな唇が、優しく弧を描いた。 彼女は大きな鎌を手に、立ち上がった。
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