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1: 発 端
画面に映し出されたのは、どこの高校にもありそうな渡り廊下。きらきらと光る陽射しの下、女子生徒と男子生徒が向かい合う。
「いけっ、頑張れっ」と撮影者の声が入った。
しかしロングヘアの女子生徒は恥じらった様子で前髪をいじり、なかなか本題に入ろうとしない。
「じれったいなぁ~」
「さっさと言えって!」
「早く、早く!」
声援にも熱が入る。
姿は見えないが、彼女の一大決心を大勢の生徒達が見守っていることがわかった。
女子生徒は2-Bの三田鹿乃子。告白を待つ男子生徒は、同じく2-Bの金藤宏汰。この瞬間、二人はたしかに青春の主人公だった。
それが暗転したのは、次の瞬間――
三田鹿乃子の表情がみるみる凍ったかと思うと、とつぜん廊下の柵を掴んで飛び降りた。
細い両脚がさかさまに宙に浮く。
カメラがぶれ、動画には生徒達の絶叫――金藤宏汰の喚き声――そして数秒の黒い画面――
‥
:‥∴ご覧いただきありがとうございました∵‥:
‥
心臓がばくばくと鳴る。
テロップが流れた後、画面が切り替わって女性の顔がアップで映される。
画質は荒いが、三田鹿乃子だ。
ぼさぼさの黒髪に色白の肌、地味で涼やかな顔立ちの、今は亡き三田鹿乃子がカメラ目線で喋り出す。
「……私は……したくもないのに無理矢理、告白させられて、自殺しました。いじめていた奴らは、罰もなく、のうのうと生きています。……悔しいです。でも死んで七年も経って、憎い奴らの消息がわかりません。この動画を見たあなたに、お願いです。どうか情報提供にご協力ください。これから、そちらにお邪魔します。絶対に逃げないでください。私を怖がらないでください。約束です。もし破ったら……」
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