5: 贖 罪

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5: 贖 罪

 私は久々にすっきりした気持ちで、涼の部屋には寄らずに直帰した。コンビニで買った発泡酒を開け、一人で乾杯する。  これで罪がチャラになったとは言わないが、心のしこりが解けた気がする。友人は悪霊なんかにならず成仏し、死の動画も拡散されてなどいなかった。  安い酒が、やけに美味しく喉を潤す。  私は卑怯なんかじゃない。ちゃんと過去を悔いて、反省している。悪霊に呪い殺されるっていうのはもっと、ろくでもない人間に下る罰だ。  私はKanonを演じることで彼女を思い続ける。それが私の贖罪――  ピンポーンとインターホンが鳴った。  涼が呼びに来たのだ。  彼とはビジネスライクな関係だが、実のところ、もうとっくに、好きになってしまっている。  思いを打ち明けようか迷っていたのだが、三田鹿乃子の手前、ずっと躊躇していた。  ……もう今夜、言ってしまおうか。 「涼ー?」  弾んだ声とは裏腹に、すっと背筋が凍りつく。  画面には黒い長髪の女が映っていた。  一瞬、三田鹿乃子かと思った。  次に、Kanonが現実になったのかと。  どちらも違う。これは変装した舞だ。真実を指摘したことで、彼女の神経を逆撫でしたのかもしれない。悪霊が呪わなくても、人は人を殺害出来るのだから。  ぞっとして、私はインターホンのカメラを切った。  大丈夫。玄関は二重に施錠してあるし、チェーンも掛けている。あ、でも、二階なのでベランダからの侵入は――と考えて、慌てて窓の施錠も確認した。  これで良い。いざとなれば警察に通報するしかない。  そのとき、耳元にふうっと冷たい風が吹いた。  体が硬直して振り向けない。  続いて、懐かしい声がする。 「朋菜ちゃあん」  え? 「朋菜ちゃあん」 「か、鹿乃子?」  まさか。  噓でしょ。  だって、あの動画は、舞が―― 「鹿乃子ご、ごめんなさい。私は取り返しがつかないことを、してしまった。ごめんなさ」 「朋菜ちゃあん」 「これからは、か、Kanonを通じて私が鹿乃子を、生かすから、だから、だから」 「朋菜ちゃああん。朋菜ちゃあああん」  は、話が通じない。  これ、本当に、あの三田鹿あ  両足が床を離れる。  もがいても、ズルズルと天井へ引っ張られてゆく。 「朋菜ちゃあああん。朋菜ちゃああああん」  ああ、い痛い、曲がらないよお。  痛い痛い痛い痛い痛い痛い  こんなのひどいよおお  痛いよおおた、けて  ああ、ああああ  あ
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