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終: 発 端
弥上涼は、雑居ビルの中にある居酒屋に入った。待ち合わせた相手は喪服姿の河埼舞。
朋菜の葬儀に、涼は参列しなかった。せっかく軌道に乗り始めたKanonのために、朋菜の代わりを探すのに忙しかったのだ。
ようやく見つかっても、なぜか機器トラブルでKanonと動作が連動せず、挙げ句はモデルまで崩れる始末。
「お忙しい中、呼び出してすみません。……あの、これを」
席につくなり見せられたのは、例の動画。視聴するのは初めてだ。素人にしてはよく出来ているが、本業の目で見れば明らかに作り物。
「朋菜さんがあまりにも普通に生活しているから、鹿乃子のことを思い出して欲しかっただけなんです。でも、まさか本当に……」
「自宅での不審死。金藤宏汰と同じってか……」
舞は頷く。
室内にも関わらず、朋菜の遺体は高所から落下したかのように首の骨が折れていたと聞く。
「それで、用事って何?」
「朋菜さんが亡くなった日、変なことを言っていたんです」
「変なこと?」
「私が鹿乃子の格好をして待ち伏せていたとか、合鍵を作って部屋に入り込んだとか……そんなことしてないのに」
舞は、動画を削除しようとしたと言った。しかし何度削除しても、削除しても、いつの間にか復元されてしまったのだそうだ。
最近では見知らぬアカウントによって勝手に動画サイトにアップされており、それはSNSに転載され、ひそかに拡散され始めているという。まるで自我を宿したかのように。
「私のところにも鹿乃子の霊が、き、来たんです。『私をいじめた奴らを知らない?』って訊くんですよ。知らないって答えても、しつこくて、布団や、お風呂や、会社のデスクの下に、本当にしつこくて、いきなり現れるんです。あ、あれは鹿乃子じゃない。鹿乃子の形をした別物。私、た、耐えられない」
まるで動画の言葉そのままではないか。
……三田鹿乃子の言う奴らとは、どこまで含まれるのだろう?
大勢の面前で告白を断った金藤宏汰。告白をけしかけ、動画を撮影した朋菜。
あとは、朋菜と同様に告白を煽った生徒がいたはずだ。周りで野次を飛ばした生徒も。いや、そもそも三田鹿乃子にコンプレックスを負わせた同級生達も無関係では――
「――ちょっと待って。どうして俺に動画を見せたんだ。俺は部外者なのに」
舞は無言で席を立ち、そのまま店を出てゆく。
その直後、追い掛ける涼の目の前で、彼女はビルの柵を乗り越えて落下した。
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:‥∴ご覧いただきありがとうございました∵‥:
‥
了
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