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2: 動 画
「これ、怖くないですかー?」と舞は笑って、スマホをローテーブルに置いた。
「私の妹、高校生なんですけど、この動画がすっごい流行ってるんだって」
「つ、作り物でしょ……」
テレビから流れる軽快なBGMは、張り詰めた空気には不協和音だ。
「朋菜さんってば疑り深いんだからー。飛び降りのシーンとかマジっぽくないですか? これ音量上げたらグシャッ……て聞こえるらしいんですよ。聞きます?」
「聞かないよ!」
舞は笑顔を引っ込めた。
「気分悪くなった。帰るね」
さっさと荷物を纏める私に、舞は「ええっ。今日は泊まって行くって……」と慌てたが、無視して玄関を出る。週明け、会社で舞と気まずくなろうが構わなかった。
エレベーターのボタンを押す。十二階まで箱が上がって来るのは遅い。
――どうしてあの動画が、今更。
あの動画の前半――告白から転落までの部分――は高校生の頃、私が撮影したものだ。
クラスメイトの三田鹿乃子が金藤宏汰に片思いしていると知り、告白をけしかけたのも私。
地味な女子生徒と、人気者の男子生徒の告白劇。
上手くいってもいかなくても絶対に盛り上がると確信し、日時を友達に宣伝して、撮影の準備を整えた。
いじめたつもりはなかった。金藤宏汰はお調子者だが素直な性格なので、悪意のある返事はしないだろう。切ない青春の一ページにこそなれ悲惨な結末にはならないはずだ。
だが、現実は。
エレベーターの扉が開き、一階のボタンを押した。たわんだ布地の壁に寄りかかり、長くため息を吐く。
もう七年前だ。三田鹿乃子が三階の渡り廊下から飛び降り、首の骨を折って死んだのは。
当然、私は原因を作ったとして責められた。でも直接的に死の引き金を引いたのは私じゃあない。金藤宏汰だ。
その彼も、後を追うように亡くなった。
――三田鹿乃子に呪い殺された? いや、まさか……そんな非現実的なこと……。
三階を通り過ぎたとき、エレベーターの窓の向こうに長髪の女が立っているのが見えた。それは一瞬のことで、間もなく一階に到着する。
あのパサついた黒髪、面長の顔――彼女にそっくりだった。
ぶるりと身震いして、私はマンションを出る。
私は悪くなかった。私は悪くなかった……。
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