友人は宇宙人

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「……俺が怖いか……? 」    元の……この星の仮の姿に戻ってから、昴輝が透に問う。元に戻る際にも、もう一度あのグロテスクな映像を透は見せられる事になった。見たくないような見たいような気持ちに駆られて、顔を手で覆いつつも、指の隙間からチラチラ覗き見していた。 「……え?」  指の隙間から見えた昴輝の表情は、何となく哀しげに見えた。顔を手で覆う仕草が、彼から見たら、透が宇宙人である彼を怖がっているように見えたようだ。 「……怖くなんかねぇよ……ただ、ちょっと驚いただけだ。」  顔から手をゆっくり離して、透は不機嫌そうに答える。同じ職場で三年間共に働き、公私ともに仲良くしてくれた友人だ。宇宙人だからと言って、自分に危害を加えてくる様な奴じゃない。そう思える程に信頼関係がある。宇宙人だから怖がっていると思われるのは、透にとって心外だった。 「……そうか。」  昴輝は安心したように微笑んだ。 「……さて、ここからが本題だ。」 「……へ?」  昴輝の言葉に、驚いて透は間抜けな声を出す。 『友人が実は宇宙人だった。』それ以外の本題など何があると言うのだろう。 「俺は、もう地球に飽きたから、次の惑星に旅をする。」 「……え? 今日で会社を辞めて、海外で仕事するっていうのは……」  仕事が出来て、社内の人望も厚く、異例のスピード出世の超エリートな彼が、数ヶ月前、辞表を提出した。海外で新たな事業にチャレンジしたいという理由だった。その様な理由では、会社側が彼を引き留められるわけもなく、社内の人間に惜しまれつつ、彼は今日を持って会社を去ることとなった。  昴輝が会社を辞める。それを透が知ったのは、昴輝自身の口からではなく、会社の朝礼で、他の社員と一緒に聞かされた。透はそれに腹を立てた。何故、昴輝自身から言ってくれなかったのか。昴輝に問いただした事がある。昴輝はそれに対して、『悪かった。』の一言しか返さなかった。 「……嘘に決まっているだろう。……友人であるお前には、本当の事を伝えたいと思ったんだ。」 「……だったら、何ですぐ言わなかったんだ? 何で……」  『悪かった。』という答えに、何か言えない理由があるのだろうとか、そんな事は些細な事であって、自分達の友情は変わらない。そう割り切っても、ここ数ヶ月間、何処か心の片隅にモヤモヤした気持ちがあった。    海外なら、連絡を取り合う事だってできる。でも宇宙へと旅立ってしまえば、もう二度と会えなくなる。それが分かったこのタイミングで、どうして本当の事を伝えてきたのか。もっと早く分かっていたなら、残りの日々をもっと大事に出来たのではないのかと透は思った。 「もし、お前に拒絶された場合の事を考えると、出来なかった。」  会社を辞める前に、通常の仕事と引き継ぎ等、やらなければならない事がある。安定した精神状態で最後まで集中して仕事をこなす為に、真面目なこの宇宙人は今の今まで言わなかったのだ。 「宇宙人だからって、俺が拒絶するような人間だと思ったのかよ! 」  透は怒って昴輝に詰め寄り、胸倉を掴んだ。 「……世の中、お前みたいな人間ばかりじゃない。実際、何度か拒絶された事がある。」  静かにそう答える昴輝の表情は苦しそうだ。胸ぐらを掴まれたからというより、哀しい過去の経験を思い出しているようだった。ハッとして透は、胸ぐらを掴んでいる手を離した。 「……だが、それは言い訳でしかなかった。俺は心の底から、お前を信頼できていなかった」  過去の辛い経験に縛られず、共に過ごした三年間で見てきた透の人柄を信頼するべきだったと、昴輝は自分の非を認めた。 「……悪かった。」 「……いや、お前の気持ちも考えずに、つい熱くなっちまって……俺も悪かったよ。」  頭を掻きながら、透も謝罪を口にする。でも、これでお互いの(わだかま)りは解けた。その友情を見守るように、月が優しく二人を照らしていた。        
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