友人は宇宙人

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「じゃあ、もう会えないんだな。」  月に照らされた川面を眺めながら、透は寂しそうに呟いた。 「……そんな事は言ってないだろう。」 「……えっ?……あ? 」  昴輝の言葉に、透は驚くと同時に混乱した。 確かに『もう、お互い会う事はない』と、昴輝の口からは一言も発せられていない。しかし地球と宇宙のどこかでは、物理的に連絡や会う事も不可能ではないかと、透が考えていた時だった。 「……俺が、会社を辞めた本当の理由は……」  昴輝が話を切り出した。 「毎日、同じようなことの繰り返しっていうのは、しばらくウンザリだからだ。(みつる)シリーズは好きだがな。」 「あはははっ!お前、本当に満シリーズ好きだもんなー!! 」  満シリーズとは、昴輝と透が働く食品工場のシリーズ化された商品である。  二人が働く食品メーカーの社長の名前が『(みつる)』で、その名前にちなんで、満月をモチーフにしているのが特徴だ。  たくあんが沢山入ったチャーハンを薄皮の卵で包んだオムライス弁当。たくあんが沢山入った、丸いおにぎり。レモンと黄色いパプリカが沢山散りばめられたピザ。他にもたくさんあるのだが、とにかく黄色い食材を使って丸みを帯びた形を成していれば良いのである。  昴輝は、この満シリーズのレモン&パプリカピザを初めて食べて衝撃を受けたという。どうやって、食品を作っているのだろうと興味を持ち、とうとう生産している会社に就職してしまった。  モデルをやっていてもおかしくないルックスで、なぜこんな中小企業の工場に就いたのか。疑問に思って、昴輝の就職初日に透は聞いた。眼を輝かせながら早口で、理由と好きな商品を語る昴輝を、透は今でも覚えている。しかし、そこからの三年間の昴輝の働きは凄かった。  初めのうちは、好きな商品の生産に携わるとだけあって、商品がベルトコンベアを流れていく様を見るだけでも昴輝は興奮したものだ。  食材を加工している機械どういう物なのか。つぶさに観察しては、仕組みを理解する。宇宙船を扱い、時にはメンテナンスも己でする昴輝にとっては簡単な事だった。そのおかげで、工場で機械のトラブルが起きた際にもその場で対処する事ができた。  職場の人間関係もすこぶる良く、柔らかな物腰で人に接する。しかし業務に関しての自分の意志はしっかり主張する。  コストを低くし、生産の効率化の具体案を上司に進言したこともある。機械だけでなく、様々なトラブルにも対処した実績もあり、上司もその言葉を聞き入れた。  好きな商品を沢山、安全に、低コストで効率よく生産するには、どうすればいいのかという目的で動く。その働きは周囲に認められ、透より後に就いたにも関わらず、あれよあれよという間に、主任にまで抜擢されたのである。  主任になって、現場にいる事も以前より少なくなり、人材育成や業務管理が主になった。以前のようなワクワク感も減った。  業績もアップして、目標は達成された。もう後の事は、他の者に任せれば良いだろう。  宇宙人という事もあって、もともと出世というものに興味が無い。  『これからも毎日、職場に行って家に帰るという繰り返しの日々を送りたいか? 』と、自分自身に問えば、否だった。  早い話が、就職する前の自由気ままな生活が恋しくなってきたのである。 「毎日、同じ事の繰り返し。そういう日々から抜け出したい……透……お前もそうだろ? 」 「…………」 「……だから、一緒に抜け出さないか? 」 「……ん? 」 「……俺と一緒に宇宙を旅しないか? 」 「……ええぇえっ!? 」  透は驚いて声を上げた。  
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