友人は宇宙人

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 透は昴輝の言葉にすぐには返事ができずにいた。あまりに突然で、大きな決断のように思えたからだ。 「別に、ずっと旅をするわけじゃない。」 「どういうことだ? 」  昴輝の言葉が理解できず、透は聞き返す。 「地球は広い。宇宙はもっと広い。そのどこかに、透が透らしく生きていける居場所が絶対にある。」  それは、この地球上のどこかかもしれないし、宇宙のどこかかもしれない。一周回って、やっぱりこの街だったと理解(わか)るかもしれない。 「そういう場所を見つけたら、旅をやめればいい。それまで、自由気ままに楽しく探していかないか? 」 「…………」 「……透、スマホを出せ。」 「……え? 」 「……いいから、出せ。」  透は言われた通り、ジーンズの後ろポケットからスマホを取り出す。液晶画面を上に向けて手に持てと言われて、言われた通りにする。    すると透の持っているスマホに、2ミリメートルくらいしかない厚さの銀色の金属のような物が、上から(かざ)された。スマホのような形状をしているが違う。おそらく宇宙の最新機器なのだろう。  透のスマホがピコンと鳴った。自分のスマホを見てみると、ホーム画面には見知らぬアプリが表示されていた。 「……これを使えば、俺が宇宙のどこへ居ても、互いに連絡を取ることが出来る。」 「え? 俺のスマホからでも連絡できるの? 」 「できる。さらにこの宇宙船は、行きたいと思った場所に瞬時に移動する事も可能だ。例え宇宙と地球に居ても、いつでも会いたい時に会える。」 「…………」 「……旅の途中に、家族や友人に会いたい時だってあるだろう。そういう時にこれを使えばいい。」  旅に出るという事は、家族や友人と会えなくなる。万が一の緊急時にも駆けつけなくなる。ましてや宇宙ともなれば、連絡すら取れなくなる。  そういった理由で決断しづらくなっている透の気持ちを、昴輝はこういう形で払拭してくれた。 「……返事は急がない。行くにしても行かないにしても、答えが決まったら……」 「行くよ。」 昴輝の言葉を最後まで聞かずに、透は返事をしていた。昴輝は驚いた表情で透を見る。 「お前と旅をするってさ、楽しそうだ。」  透は微笑っていた。ワクワクした感情を隠しきれない様子だ。それを見て、昴輝も微笑った。  不安はある。だが、この宇宙人の友人は、とてつもなく頼りになる。それは三年間同じ職場で、見てきた。さらに、自分を悩みから救ってくれた。  昴輝となら、きっとどんな苦難でも乗り越えられる。そんな気がした。  そのあとしばらく街の上空を飛び回り、二人で今後の話を少しした。 「まずは地球を旅しよう。」 「どこの国から行こうか。」 「旅をするのに、何を持っていこうかな。」 「(みつる)シリーズのストックは欲しい。」 「家族や友達にアプリを入れさせないと。」 「じゃあ、これを持っていけ。」  透はアプリを転送する機体を手に地上へと降り、その日は帰宅した。  そこからは、怒涛のごとく旅の準備を始めた。会社を辞め、持っていきたい物を用意して、借りているアパートを出て、家族や友人にも挨拶をした。  数ヶ月後、ワクワクしながら、透と昴輝は旅立った。 《完》  
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