友人は宇宙人

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「……(とおる)。」 「……ん?……何?」    石ころを蹴りながらゆったりと歩いていると、後方を歩いている友人に声を掛けられて、水島透はそちらを振り向いて立ち止まる。  数メートル離れている友人も立ち止まって、透の顔を見つめている。その月明かりに照らされた彼の顔は、真剣な表情だった。 「……今まで黙っていたが、俺は宇宙人だ。」  送別会の帰り道、河川敷を二人で歩いている時に会社の友人である青山昴輝(こうき)は、そう告げてきた。 「……お前が宇宙人? ……へぇ」 「……信じていないようだな。」  昨日の今日まで同じ職場で働いていた人間が『実は宇宙人だ』と聞かされて、『はい、そうですか』と鵜呑みにする程、透は馬鹿ではない。 「……あぁ、なるほど……仕事も超出来て、人望もあって、異例のスピード出世を果たしたのは、お前が宇宙人だったからなのかぁ……」  珍しく機嫌が悪く、面白くない昴輝の冗談(と、透は思っている)を皮肉で返す。 「おい、それと宇宙人は関係ない。妬むな。……いや、話が逸れる。俺が宇宙人というのは、冗談で言っているんじゃない。」 「じゃあ、証拠を見せろよ。……だいたい宇宙人ってさ、ほら、頭デカくて、目がギョロっとしてて、手足も長くてヒョロっとしててさぁ、全然違うじゃん! 」  宇宙人だと名乗る友人は、身長180センチメートル以上はある長身で、筋肉も程よく付いていて、顔も目鼻立ちが整っていて、世の女性から好かれる甘いルックスとスタイル。何処からどう見ても人間だった。 「……この地球で、最もポピュラーだと言われるタイプの宇宙人だな。残念ながら、俺はその種族じゃない。そして今のこの姿も、この惑星での仮の姿だ。」 「じゃあ、その本当の姿っていうのを見せてみろよ。」 「……それはできない。本来の姿は、とても小さい。そうだな……胡麻(ごま)以下だ。本体だけでは、この地球の汚染された空気にも耐えられない弱い存在なんだ。」  冗談だと思っていたが、その割にはやけに設定が凝っているなと、透は黙って聞いていた。 「本体は普段、コアという部分に守られていて、そのコアを守り包み込んでいる役割を担っているのが、この肉体だ。俺の母星にはこの星の音で言うと、フェキミシルハイグルンという生物がいる。自由自在に形を変え、さらに最強の免疫力を誇る。俺の種族は、それに寄生して生きている。」 「……えっ? えっ? ちょ、ちょ、どういう事!?」  急に難しい言葉を早口で(まく)し立てられて、理解が追いつかず、透は頭を抱える。 「……つまりは、こういう事だ。」  昴輝の身体がぐにゃりと、あり得ない方向に歪む。 「うっ、うわぁあ!!」  衝撃の光景を目の辺りにして、透は驚愕の声を上げる。  昴輝の肉体がどろりと、水飴状に溶けていく。 ぐにゃり、ぐにゃりと昴輝の肉体は蠢き、ある形を成す。それは頭は猫に似た動物の顔立ちをしていて、背中から翼があり、あとは人間と同じ身体をした二足歩行の姿だった。 「本体の姿は見せる事はできないが、今まで見てきた様々な宇宙人の姿に自由自在に姿を変える事は出来る。その中でも可愛い部類の宇宙人の姿を選んだつもりだ。」  姿は変わっても声は変わらず、滑舌が良く、落ち着いていて、柔らかな低音だ。 「他にも色々な宇宙人に変身出来る。お望みとあらば、お前のさっき言っていた特徴の宇宙人というリクエストにも応えてやるぞ。」 「……い、いえ……結構です。」 「……そうか? まぁいい。……これで、俺が宇宙人だという事は信じてくれたか?」  あんな衝撃映像を見せられたら、透はもう頷くしかなかった。
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