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――明かりの乏しい夜だった。
屋敷のエントランスに充満する、血の香り。床を張り巡らすウールの絨毯に転がる、数十の死体。烏の鳴き声だけが外から響いてくる、静かな世界。
そこに立つ、ひとりの幼き少女。
開けっ放しの扉から夜風が吹いてくると、少女の腰まで伸びた紫の髪が靡いて、その顔立ちが顕になった。端正だがあどけなく、閉ざしたままピクリとも動かない口角が、無機質な人形を思い起こさせる。そんな顔立ちだった。
そしてその白い頬には、真っ赤な血が似合わず付着している。地面に横たわる数十の死体のどれかの、返り血だ。
全ては、少女がやった。少女が死体の山を作り上げたのだ。小さな手には大太刀が握られており、切先からは血が滴り落ちている。
少女は正常ではなかった。
「わ、あァ……」
呼吸ができず漏れ出す呻き声。やがて体の力が抜けて倒れるように膝を着く。そのとき床に溜まっていた死体の血が服へ染み込んだ。
「はぁっ、はっ、ハッ……!」
心臓の音が胸の内側を叩きつける。全ての内蔵が破裂してしまいそうで、咄嗟に胸を押さえた。
「う、あアァッ!」
しかし耐えきれなかった。少女は血溜まりの上に倒れる。他人の血液が服を浸し、だんだんと肌にまで染み込んでいく。煩く高鳴っていた鼓動も、いつしか耳には入ってこなくなって。
「……、」
ぷつん、と途切れた。最早そこに少女は存在しない。いるのは、少女の奥底で虎視眈々と息を潜めていたモノ。
「絶対、許さない」
ソレは笑っていた――
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