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暫く外気を浴びていると、外から足音が聞こえて心臓が飛び跳ねた。男――龍馬のものではない。さっと戸を閉めて部屋の奥に隠れた。
「そんなこと、あるの」
へたりと畳に座り込む。普段であれば疑うところを、もう本能は理解してしまっているのだろうか。反射的に外界を遮って、人の目につかぬようにした。
(多分、いま私は人に見られてはいけない)
彼の事情や周囲の状況に首を突っ込まないようにしていたのが仇になったのか。
彼の風貌、土佐の方弁。古びた町並み。にしては活気のある人々。身に纏うものは質素な着物や浴衣。澄み渡る広すぎる青空。どれも些細なものとして片付けてしまっていた。
隅にある文机の引き出しを開く。しまってあったのは鉛筆やペンなどではなく筆と墨。手紙らしきものもあり、こっそり中身を確認するが、字がくずしてあって全く読めなかった。かろうじて認識できたのは日付だけ。文久三年の四月と綴られている。
「文久三年って……」
その年の出来事を思い出そうとした時、やけに外が騒がしくなった。誰かが喧嘩でもしているのだろうか。
確かめるべく格子の外を見る。少し先の通りにある人混みが、なにかによって道端へと捌けられていた。よく目を凝らすと、ど真ん中を貫くように歩く集団がいた。
浅葱色の羽織りに、腰には刀。
「新撰組……?」
江戸末期頃、京の治安を守っていたとされる剣客集団。様子を見るに、ここいらの住民に聞き込みをしているようだった。
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