*スナック*Mさん*

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*スナック*Mさん*

 ところで、このスナックにはMさんと言うお客様もいらっしゃったのですが、そちらはママしかつかない特別なお客様。  なんたって、Mさんの呼ばれ方は「マスター」だった。  どこかの店でマスターをやっていると言うわけではなくて、このスナックの「マスター」だったのだと思う。  ママは20代後半のような容貌をしていたけれど、多分若く見える30代だったのだろうと思うのだ。  そして、このマスターも、30代後半ではないだろうかと思しき顔立ちに、スマートで痩せ型の黒いスーツの良く似合う男性であった。  つまりはママの彼氏なのか、「マスターのオンナ」の中に、ママが含まれていたのか、その辺りは定かではなかった。  店が終わるような朝方に表れて、もしくは店が終わって他のお姉さんや私たちが上がってもママは店に残ることが多くて、いつもマスターがやって来るのを待っているのかもしれないと私は思っていた。  そんなマスターは、お姉さんたちや私とは話すことはなかったのだけれど、ある日の出勤日、私はママの着物を着付けて欲しいと言われ早めに店に行ったのだ。  そこには、ママとマスターがカウンターごしに微笑み合いながら仲睦まじく語らう姿があった。  これは、もう少し遅れて来るんだったかな、と気まず気にドアを静かに閉めようとすると、マスターからはじめて声をかけられた。 「うたこ、だったよな。今日はママの着物を買って来たんだ。着付けてやって」 「おはよう、うたこ。着物屋さんから着て来たら着崩れしちゃいそうだったし、うたこがやると苦しくないから、お願いするね」 「はい。私、そんなに上手じゃないのに、すみません。じゃあ、奥の部屋に…」 「いいのよ。マスターはカウンターで飲んでいるだけだから、こっちの広いところでやってちょうだい」  マスターには、ママは裸を見られても良いようだった。
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