大丈夫。

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心臓の音って言うのは、どんなものより耳に直に入ってくるように思える。 ドキドキドキドキって、脈を打つそれは 例えば近くでドラムの音を聞いているよりも 例えば目の前で花火が花を咲かせても どんな音よりも鮮明に聞こえるわけで。 窓の外から聞こえるホイッスル音だったり、生徒の掛け声が今のあたしのその音を一生懸命誤魔化すけど、これがなくなったらきっと息が苦しくて我慢できなくなるだろう。 ―――大丈夫。――― 「暑い」 「…ごめん」 夏休み1週間前の放課後の教室。 HR委員長のあたしは、先生に頼まれた資料を整理していた。 次第に部活に出ていくクラスメイト達。 あたしも早く部活に行きたいのだけど、目の前にある膨大な資料のせいで部活までの道のりは遠そうだ。 ため息を吐きながら先生とあたしだけが残った教室で資料の整理をしていたところ、忘れ物を取りに戻ってきた男子生徒がいた。 丁度職員室に戻ろうとしていた先生が彼を見つけると 『黄倉、委員長の手伝いしてやってくれ。顧問の先生には言っとくから』 彼、黄倉佑堵に資料整理の手伝いを促せた。 妙な緊張に包み込まれたこの空間。 エアコンが切れた暑い教室の中で、じんわりと出てくる汗を掻きながらあたしたちは黙々と資料をまとめていく。 「別にいいよ。これぐらい…」 低いその声に安堵を覚える。 どうやら怒ってはいないらしい。 よかった。 っていうかこの仕事1人でやるのは確かに困難で難しいことだけど、何でよりによって黄倉くんなのだろう。 嬉しいかって聞かれればそりゃ嬉しい。 でも教室に2人きりなんてあたしの心臓は持たないと思いますけどね。
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