大丈夫。

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厚さ数センチはあるその資料の山。 整理をしてもしても、なくなる気配はない。 「はぁ」と思わずため息をついていると、グラウンドからカキーンとバットでボールを打つ音がする。 オレンジ色の景色の中、1つのボールが上へ上へと向かっていくと、次第に円を書きながら落ちていった。 その音を気にすることなく、黙々と作業をしていく黄倉くんの目は、うつらうつらとしていた。 時計の秒針が鳴らす音の間にグラウンドからサッカー部のホイッスルの音や、陸上部の掛け声が響いている。 黄倉くんも早く部活行きたいんじゃないのかな…。 忘れ物さえしなければ、こんなことに巻き込まれなかっただろうに。 そう思っては罪悪感を抱きながら目の前の資料を1枚1枚整理していく。 外は日が暮れかかり、もうすぐ6時。 7時までの部活だから、黄倉くんはたぶん今日の部活動にはもう間に合わない。 ああ、やっぱり罪悪感。 夏の風が時折カーテンにかかりながら中に入ってくる。 温風と言ってもいい風の暑さにあたしは嫌気をさした。 こんな中1人で帰るのか。 彼氏でもいればコンビニに寄り道をして帰れるのに。 そう思った自分がバカだった。 「彼氏」という単語に妙に隣を意識してしまう。 よくよく考えれば教室に2人っきり。 そんなこと滅多にないチャンスだ。 だってあたしはそんなに黄倉くんと仲良しなわけじゃないし、部活も帰る方向も一緒じゃない。 何もかもが黄倉くんと離れている。 席だって廊下側のあたしに対して、黄倉くんは窓側だし。 朝登校してくると、毎日のようにあたしの席に座って黄倉くんが友だちと話してるぐらいで。 あたしの姿を見ると「あ、悪い」って言って席を退いて、あたしは「ううん」って言って席に座りながら、変わらず友達と話している黄倉くんを一瞥するぐらいで。 ―――「あ、悪い」って一言言われるその瞬間が本当は大好きだったりするぐらいで。 それ以外の接点なんてないのだ。 告白するなら、今しかない。 そう思った。
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