大丈夫。

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「ごめん、ちょっと寝かせて。昨日ゲームやってたからあんま寝てないんだよ」 「え?あ、ああ。いいけど…」 「サンキュ」 そう言った瞬間、彼は山のような資料を後ろの机において「もう限界だわ」と言って机に顔をうつ伏せた。 あたしとは反対の方向を向いたまま寝息をたてる彼。 こんなに速爆睡してしまうほど相手をするのに疲れてしまったのだろうか。 言ってもたった3歳しか離れていない小学生相手に? と、同時にあたしは彼を少し恨んだ。 折角出かかったあのことば。 勇気を振り絞って言いたかったことば。 それを阻止されたあたしのショックは大きい。 さっきまで津波のように押し寄せていたドキドキも、今はさざ波くらいに小さくなってしまった。 あたしは大きく、はあ、とため息をついて、肺の二酸化炭素を吐き出した。 「…好きなんだけどなー。黄倉くんのこと」 本人に聞こえていないとわかっていればこの台詞だって言うのはこんなにも容易い。 本人に聞こえてなきゃ全然意味はないんだけど。 あたしはまた机に向き直し、さっき手を止めた資料の整理に再び取りかかった。 もう告白なんてどうでもいいや。 早くこの仕事を終わらせなければ。 そう決意したその時だった。 「いいんちょって俺のこと好きなの?」 隣から聞こえたその声。 その低く、さっきの会話で聞いた声。 その声は明らかにあたしの独り言に対する返事だった。 まさかの展開にあたしの全神経が研ぎ澄まされる。 ―――…狸寝入り…!? そう思ったら、さっき引いたはずのあの波がまた津波のようなドキドキとなってあたしの体を襲った。 おどおどしながら彼のほうを見ると、机に頬杖をついてあたしを切れ長の目で見ている。 しかも、目はしっかりと開いている。 ―――やっぱり狸寝入りだ!! 視線と視線が絡まりあう。 一気に羞恥心が押し寄せた。 ―――うわっ! 恥ずかしい! ぎゅぅっと唇と手を握りしめ、熱くなる体を無意識に摩る。 すると彼は突然 大丈夫。 と、言ってきた。 その表情は柔らかく、口元は緩んでいる。 変わらず笑みを浮かべながら、彼はゆっくりと唇を開いた。 「大丈夫。俺もお前のこと好きだから。」 END
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