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背中が触れた瞬間のベッドシーツはひんやりとしていて、亜生はつい、体を竦めてしまった。それを怯えと取られても仕方ないし、実際そうだと思う。
ソファでキスしてからの千隼の動きは性急で、亜生が抗う余裕は一切なかったのだ。
指をしっかり絡めて、両手を握られる。体重をかけて覆いかぶさってくる体は、大人の男のそれだった。まだ成長過程にある亜生とは違っている。
唇同士が重なる。するりと当たり前のように入ってくる舌に、亜生は応える。絡ませて解いて、また絡ませる。亜生の気持ちが良い場所を簡単に見つけられてしまい、攻略される。休む時間も与えられない。口内に溜まった唾液を飲み込む。上下する喉を千隼が見つめ、目を細めた。いやらしい笑みが、口の端に浮かぶ。
キスで官能が高まっていく。クーラーで冷えていたはずの体が火照っている。
ぼんやりしているうちに、千隼の手によって、両腕を上げさせられる。Tシャツが脱がされる。涼しくなった。無駄なものが取り除かれたような、さっぱり感。だが、次の瞬間には、体がわななく。露になった首、鎖骨、肩をじっくりと撫でられる。存在を確認するような手の動き。
千隼の顔が下がっていって、胸部に彼の髪の毛がパサリと触れる。普段は気にも留めない小さな突起を、舌で突かれた。甘い痺れが起こった。性器に直通するような快感ではないけれど、腰がそわそわするような心地よさが生まれた。
そのまま右の乳首を愛撫しながら、千隼が両手で、亜生のジーンズを脱がせにかかる。
亜生は抗うどころか、その作業に、腰を浮かせて協力していた。
早く触ってほしい。
そこがすでに熱を持っている。
下着が脱がされ、ひやりとした空気に高まった性器が晒される。腰がひくりと震えた。
視界に映る千隼が、見せつけるように手のひらを舐めた。そして、焦らすこともなく、亜生の牡を握り、擦り上げてくれる。ゆっくりと、指で感触を味わうように。
あ、と声が出た。熱い快感が襲ってきて、頭がくらりとする。解放されている両手で、シーツを手繰る。
徐々に加速しながら扱かれ、簡単に射精感が込み上げてきた。全身が発汗する。腰がくねった。先端を指の腹できゅっと擦られて、鋭い快感が走った。
シーツを握る手に力が入った。いつの間にか広げられている両脚が、ぶるぶる震える。
「あっ……あ!」
追い打ちをかけるように、刀身を激しく擦られて、体内で蓄積していた熱が一気に弾けた。咄嗟に目を瞑ると、褪せた薄墨色の視界でチカチカ光が瞬いた。
がくっと体から力が抜けた。自然と浮いていた腰がシーツに落ちる。腹に濡れた感触。
一人であっという間に達してしまった。溜まってたんだ、と自分に言い訳する。
千隼が体を起こし、膝立ちになった状態で服を脱ぎ始めた。Tシャツが床に落ちる音。
筋肉がほどよく乗った、均整の取れた胸、腹部。ごつごつした感じでもなく、しなやかだった。彼の手が今度はボトムにかかる。
じっくり観察するのも恥ずかしく、首を横に向ける。大きめの白い枕が見える。その上に置いてあるのは、個装のゴム何枚かと、あと――。
ちょうど千隼が、それを手に取った。
男の体は自然には濡れないから、必要なもの。そしてまだ、千隼がイっていない事実に、嫌でも悟ってしまう。
――するんだ。最後まで。
恐る恐る、千隼の下腹部に視線を向ける。
そこはすでに勃起していた。
慌てて目を瞑った。わざわざ自分を怖がらせる必要もない。どうせ逃げないし、逆らわない。ソファで自分から千隼にキスをしたときから、決まっていたことだ。
腰に枕が当てられ、さらに開脚させられる。あからさまな受け身の体勢に、羞恥が込み上げる。目を瞑ってそれに耐える。
脚の間に濡れた指が触れてくる。蕾をそっと撫でられ、ぞくっとする。ここを使って繋がるのだと、宣告されたようで。
そこをこじ開けるようにして、指が一本入ってくる。ぐちゅりと粘着質な音がした。たぶんゴムを嵌めている。痛くはないが違和感がある。体から力を抜くように意識した。
中の様子を窺うように、ゆっくり時間をかけて指を動かしている。どんな顔でこんなことをしているのか見てみたくなる。が、目が合ったら嫌だから、やっぱりやめる。
何度も指を抜き差しされるうちに違和感が弱くなり、自然に体から力が抜けていく。シーツから指が外れ、両方の踵が横に倒れた。
「亜生」
名前を呼ばれた。行為が始まってからずっと、お互い無言だったことに気が付く。
「ちは」
こちらが呼び終わる前に、指が複数になって内部に侵入してきた。腰が震える。
引き攣るような痛みを覚えた。じわっと額に汗が浮く。
宥めるかのように、千隼が額にキスを落としてくる。空いた手で腹筋を撫でさすってくる。
指は恐らく、三本になっている。静かに抽挿を繰り返され、また違和感が減った。内部と慣れ親しんだかのように、襞が蠢いている。
指が抜けた。にも拘わらず、そこがまだ開いている感覚。
千隼が動く気配がした。目をうっすらと開けると、彼が視界に入る。
勃起した陰茎――さっきよりずっと大きい――に、ゴムを着けていた。器用にするすると巻き下ろしている。パチンと終わりの音。
「あ」
動揺で声が出た。やっぱり怖い。受け入れるなんて初めてなのだ。
勝手に腰が逃げる。枕に尻が着く。
千隼が無言で、腰を掴んできた。引き戻される。有無を言わせないような、強い力で。
「亜生」
劣情の籠った声で呼ばれ、亜生は観念した。たぶん誰にも、こんな声で呼ばないだろうと感じたから。自分以外には、誰にも。
両方の太ももの裏を、千隼がぐっと掴んだ。硬く膨らんだ先端が、蕾にあてがわれる。
ぬちゃり、と音を立てて、千隼の牡がめり込んでくる。
「ちはや、まっ――」
声をかき消す衝撃。内部の抵抗を無視して、千隼が腰を進めてきた。ズン、と重い振動が腰に走る。
蕾がめいっぱい拡げられ、引き攣っている。内臓が圧迫されているような苦しさ。でも、我慢できないほどじゃない。
少し角度を変えて抽挿を繰り返されると、急にビリビリと痺れるような快感が沸き起こった。
「あ!」
連動するように、性器の先端が熱くなった。
「ここ?」
千隼が一度腰を引いて、また同じ場所を突いてくる。グリグリ、と押し付けるように。
「っ……あ、あ」
変な声が出る。裏返ったような甲高い声が。
ズッ、ズッ、と規則正しい抽挿で体があぶられたように熱くなっていく。四肢が痺れ、口からは忙しない息継ぎが続く。
亜生の中で息づいている充溢が、ひと際、嵩を増した。ずちゅずちゅ、と抉るように内部を捏ねられる。
「はっ、あ……」
漏れ出る息が熱い。
千隼が体を倒してくる。結合が深まって、灼熱の快感が体の深い部分でうねった。
衝動に駆られたように、千隼がキスをしてくる。めちゃくちゃ激しいキス。舌を絡めて唾液が注ぎ込まれ、飲みきれない分が顎を伝った。
勃起している性器を、責めるように扱かれて、膨れていた快感が一気に弾ける。同時に、きゅうっと蕾が窄まった。
「ああっ――」
こんな絶頂は知らない。怖くなって、でも逃げ道もなくて、亜生は千隼の逞しい肩に爪を立てた。その刹那、千隼も動きを止めて腰を震わせた。
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