モテたい彼と依存する彼女

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 C組での騒動があったあとも、知那は相変わらず1日に1度はA組に顔を出していた。変わったのは、莉々華も一緒に来るようになったことだ。吉川たちが歓迎して、あっという間に仲良くなった。  知那は、A組に来ると必ず郁斗たちにも声を掛けていく。テストどうだった、とか、体育の授業今日はあれだよ、とか、他愛のない話をする。周りはもう、知那と郁斗が話していても当たり前のように受け入れるようになっていた。  C組でも莉々華と知那は一緒にいることが多く、松野たちはもう絡んでくることはほとんどなくなったという。証拠を録ってあるという発言が効いたのだろうと莉々華は言うが、知那はそうは思ってないらしい。そもそも、松野は莉々華と仲良くなりたいがために知那を邪魔者扱いしていたので、莉々華が離れていくなら知那に嫌がらせをする理由もなくなったのだと。ただ、村田のこともあり、やはり知那と顔を合わせると嫌そうな顔をして避けられる、とのことだが、実害はないので気にしていないと。  莉々華の恋愛感情のことは伏せたまま、知那が告白していたのも「ちょっと彼氏って存在に憧れちゃって」とごまかしてるというし、誰もそれ以上のことは言ってこないという。それに、今は「郁斗ひとりに片思い中」という印象が強く、応援されることもあるという。  そして莉々華と知那が松野たちと決別したのを見て、他のクラスメートたちに声を掛けられることが多くなったという。なので、例え莉々華が休んだ日でも、知那は一人でいるようなことはもうない。  知那は、一気に友達が増えちゃった、信じられないくらい毎日楽しい、という。なによりもう周りを気にして莉々華と離れてる必要がないというのが知那にとっては幸せそうだ。  郁斗はなによりそのことが嬉しかった。知那が、この先も学校で寂しい思いをしていると感じることは耐えられそうになかったから。日常は耐えられても、学校にはイベントがある。なにより修学旅行の前に解決して良かったなと思う。  吉川たちと楽しそうに話してる知那の姿を見ていると、急に隣に気配がした。 「知那、可愛いでしょ」 「うん、かわいい……」  思わず考えたことをそのまま口にしてしまった。  慌てて振り向くと、そこには莉々華がいた。 「でしょー。知那はね、まだ本当の恋愛感情ってよくわかってないと思うんだよねぇ」 「……おぉ、そうかもな」 「だから私もまだまだ可能性はあると思ってる」 「……ん?」 「今のところ、知那にとっては郁斗くんより私の存在の方が大きい自信があるし」 「私もそう思うー」  莉々華の声にかぶせて気づいたら吉川が隣にいた。 「私たちくらいの恋愛なんてね、結婚を考えてるわけじゃないの。恋愛がしたいの。そこに性別なんて大きな問題じゃないの」 「お……おぉ?」 「郁斗がぐずぐずしてるうちに誰かに知那ちゃん取られても知らないよってこと。見守るのは郁斗の優しさだと思うけど、動く必要があるときは動かないと取り返しがつかなくなるんだよ」 「そうそう、私のほうが行動力は上だよね」 「ほんとそう! 知那ちゃんからの好意もね!」  莉々華と吉川が声を上げて笑う。  ひとしきり笑い合った後、真面目な顔をして莉々華が郁斗に向かう。 「……私より、ずっと可能性は高いんだよ。知那のこと、本当に大切なら、自分で守る覚悟決めてよ」  それは、ぐだぐだ自分に言い訳してきた郁斗の心を見透かしたような言葉だった。 「もちろん、私はこれからも親友の立場として知那を守るけどね」  莉々華の、これまでの悩みや今もある苦悩を思えば、郁斗のグダグダした気持ちがあまりに情けないものに感じてしまった。莉々華が自分の気持ちを伝え、一度離れて、また知那の友達として傍にいるという強い決意。  なにをやってるんだろう、と郁斗は自分を恥じた。 「ありがとう」  そう言って、郁斗は席を立った。  クラスメートたちと楽しそうに笑って話す知那に近づく。 「汐見さん、話があるんだけど――」 了 *** お読みいただきありがとうございます。 当初はこの先の二人の恋愛も考えていたんですが、一旦切ったほうが綺麗に終われそうなので一旦完結にします。 今後続編を書くかもしれませんので、そのときはまたよろしくお願いします。 小糸
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