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「俺、ああいうやつほんと嫌い」
村田と謎の女の子が去った後で陸は吐き捨てるように言う。
「他人のことを一番知ってるのは自分だと思い込んで、おまえのためだと言いながら悪口言って回るやつ、なにがどうなったらあんな意味の分からない行動に出られるんだよ」
「あれは汐見さんに未練があるか、自分が話題の中心にいないと気が済まないタイプと見た」
さっきまで煽っていたのが嘘のように、直哉が冷静に判断する。確かに、郁斗も直哉の認識に同意だった。
たぶん、知那のことが好きすぎて……ということではなく、手放した相手がちょっと惜しくなったとか、話題が郁斗に移ってるのが気に入らないとか、そんなところだろうと思う。
どちらにしても自分勝手な理由だ。
「郁斗、気を付けなよ、煽った俺らがいうのもなんだけど、なんかあいつ粘着質っぽいし」
陸がほんの少しだけ申し訳なさそうなニュアンスを含めて、それを聞いて郁斗は笑う。
「ほんとだよ。でも言い返してくれてありがと」
「おまえのためじゃねぇよ」
すかさず直哉に突っ込まれる。
そう、ふたりとも郁斗が絡まれて前に出てくれたのもあるが、それ以上に知那に対する失礼な物言いに怒っているのだ。自分のためじゃなく知那のため、と言われたのに、なぜか郁斗はそれを嬉しく感じていた。
知那は、いい子だと思う。
それはみんなにお菓子を配ってるからとか、そういう話ではなくて、話しかけられるとパッと嬉しそうに笑顔で話す、ああいう反応がみんなに受け入れられているのだと思う。話しかけて嬉しそうにしてくれる人を嫌う人はそういない。
それは、誰に対しても一定だった。男女問わず、「話しかけてくれてありがとう!」とでも言いたげなその反応が、郁斗のクラスメートが受け入れて行ってる理由だろう、と郁斗は思う。郁斗自身も、告白されたときの反応には驚きのほうが強くて若干引いてしまっていたが、郁斗を見つけて笑顔で駆け寄ってくる知那に悪い印象はなくなった。
誰のことも悪く言わない。みんなの話を嬉しそうに聞く。そんな子が、なぜクラスで上手く行ってないのだろうか。
なぜ、「誰にでも告白」のような行動をとっているのか……村田が忠告してきたことによって、気にしないようにしていたことがどうにも気になってきてしまった。
「あっ知那ちゃんきたー!」
そんなことを考えてると、クラスメートの吉川 結衣(よしかわゆい)が声を上げた。
吉川は明るく誰とでも仲良くなるクラスでも人一番明るくてとっつきやすい。男女問わず友達が多く、郁斗たちもよく話す女の子のひとりだった。
それにしても、いつのまに「知那ちゃん」呼びになるほど仲良くなっていたんだろう。吉川のコミュ力の高さに呆れ半分に尊敬してしまう。
「聞いてよ、さっきね、なんか変な男が郁斗のところにきて、知那ちゃんのことを色々言ってたけどあいつら追い払っちゃった!」
「おい吉川!」
吉川のいきなりの話に郁斗は驚いて声を上げる。さっきの村田の話を知那にする気はなかった。
「え、なに? 言う気なかったの? いいじゃん、知らないほうが嫌だと思うけどなぁ」
「え……誰か来たの? 郁斗くんたちに絡んだ……?」
吉川の隣で知那は驚いたように郁斗を見ている。
「あーー、気にしなくていいよ。村田ってやつがなんかわけのわからないことを言って去って行ったけど、誰もまともに聞いてないから。俺らには必要ないんでお帰りくださいーつってお帰り頂いたんだよな」
直哉が、なあ? と言って郁斗と陸に振り向く。陸が「そうだよ」と同調し、郁斗も首を縦に振った。
「村田くんが……」
知那はショックを受けたようにつぶやいて、俯く。
郁斗は慌てて
「汐見さんのことが気になってしょうがない感じだったし、もしなにかありそうだったりしたら俺らに言ってね。煽っちゃったし、直哉がなんとかするから」
「俺だけ⁉ 陸も相当煽ったろ!」
「俺はあいつが嫌い」
陸の言葉に「そんなこと聞いてねえ!」と直哉が叫ぶ。
そんなやりとりを聞いて、俯いてた知那は思わず吹き出した。
「そうそう、私たちも何となく聞こえてたけど、しょうもなさそうだったし気にすることないよ。あいつらに処理を任せたらいいよ、あいつらのせいだから」
「処理ってなんだ!」
吉川も同調して、直哉がそこに抗議する。
重くなりそうな空気が一気に軽くなって、郁斗はほっとした。
「ありがとう」
いつもの笑顔ではなかったが、知那も微笑んでいた。
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