モテたい彼と依存する彼女

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 そして郁斗は気づいたことがある。  知那に対してみていた視線は、まさに郁斗が中学の時に見られていたものと同じだった。  「可愛い扱いしてもいい」というイメージで続いた三年間。知那は「誰にでも告白する」というイメージで周りから見られているし、郁斗も見ていた。だけど、実際に関わってみて、知那の印象はずいぶん変わった。最初は距離感なしの不思議な子、というイメージだったが(郁斗は正直苦手なタイプだった)あの笑顔は寧ろ、周りとの距離感を誰よりも察知して作られたものなのではないか、と思う。  陸が意味深に伝えていたのは、まさにこのことだったのだろうと郁斗は納得する。 「あーでもちょっと納得したわ。郁斗ってなんでそんなに女子慣れしてないのか不思議だった。モテなくもないだろうにと思ってたわ」  直哉が納得したようにうんうんと頷く。  身長が伸びてからも、中学を卒業し、高校に入ってからも、周りの目は変わったのに、いざ「女の子扱いしない女子」に話しかけられるとどうにも緊張してしまって、上手く話せていない自覚はあった。そのせいか一年のときは身長は伸びたのに、全くモテなかった。せっかく普通に話しかけてくれるのに、しどろもどろしか返せないのだから当然と言えば当然だ。それを誤魔化すために男友達には「モテたいなー」と言っていた節もある。  クラス替えがないのも幸いし、二年になるころにようやくクラスメートとは自然に話せるようにはなってきたかな、と思ってるところだった。  知那からの告白は、そんなタイミングで起こった出来事だったのだ。 「確かに、汐見さんが郁斗のことを本気で好きで告白したわけじゃないかもしれないよね。でも、大体そんなもんじゃない? 汐見さんと村田だってお互い好きで付き合ったわけじゃないと思うけど」  陸が冷静な意見を述べる。確かにそうなんだろう。ちょっと気になるから告白した、付き合った、そんな話は周りでもたくさんあるのだろう。それは決して、悪いことではない。 「そうそう、実際ここまで関わってみていい子だし可愛いし、頑なに拒否する理由が俺にはわかんねぇわ」 「話してみて好きになっちゃった、でも全然不思議じゃない」  陸と直哉が交互に煽ってくる。 「俺、汐見さんのこと好きだとは言ってないけど」 「でも、気になってるんだろ」  陸は郁斗の言葉を半ば予想していたかのようにすぐにかぶせてくる。そしてそれは、否定できなかった。  ***  そもそも、知那には不可解なことが多かった。誰にでも告白するとか、クラスで上手くやっていけてなさそうなのかも、とか、付き合わなくてもいいからこの関係でいたい、とか……  そんな状態で、気にならないほうが珍しいのではないか、と郁斗は思う。自分の感情は、そんなに不思議がられるものではないのではないかと。  そんなことを考えいたとき、吉川に話しかけられた。 「郁斗、実際知那ちゃんについてどう思ってるの?」 「え、なんで?」  そう問うと、吉川はうーん、と斜め上に視線を向け、なにやら言い方を考えているようだった。  吉川は、郁斗にとって「女子でもちゃんと話せる」と思うようになったきっかけになったクラスメートだった。吉川のお陰で、二年になってからは自然に男女問わず話せるようになったと思ってる。 「……あの子、なんかクラスで大変そうじゃん?」 「吉川、なんか知ってんの?」  思わず食いついてしまった。女子の話は女子に聞けばいい、今更ながらそんなことを思いつく。 「同じ部の友達にC組の子がいるから前にちょっと聞いてみたんだよ、知那ちゃん普通にいい子だし、でも変な目立ち方しちゃってるじゃない? クラスの子といるのも見たことないし、ちょっと心配で」  それは、俺も思っていた、と頷きながら郁斗は言う。 「一年の時になんかグループ内でトラブって、そこから孤立しちゃったみたいでね。その子も詳しいことは知らないみたいなんだけど、変な噂は立てられてたって」 「変な噂?」 「……うーん、これ言っていいのかなあ。そこまで広がってないからなあ」 「教えて! お願い」  郁斗の思わずと言った声に、吉川は意外な表情をして、少し考えて向き直る。 「郁斗、思ったより知那ちゃんのこと真剣に考えてるんだね、言うけど、広めたりしないでね」  吉川の言葉には、知那への思いやりを感じた。そのことに対して不思議と吉川に感謝すら感じる。  ただいまは、知那の「変な噂」が気になった。   「知那ちゃん、同性愛者なんじゃないかって」
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