モテたい彼と依存する彼女

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「はい?」  吉川の言った言葉が郁斗にはすぐに理解できず、間抜けな声をあげてしまった。それくらい、あまりに予想外な話だった。 「……汐見さんは女の子が好きだってこと?」 「あくまで、噂ね、うわさ! 真に受けないで」 「……おぉ、そうだな」  吉川に念を押されて郁斗は切り替える。しかし衝撃が大きい。自分に告白してきた女の子が、同性愛者? 中学の時の「女の子扱いされていた」記憶が少しだけ蘇る。いや、でも、身長が伸びた今、そんな風には見られていないなはずだし、中学の時の郁斗を知那は知らないはずだ。同じ高校にも同中の連中はいる。まさかそこから……? と、思考を巡らせている郁斗に吉川は淡々と話す。 「でもね、そのあとすぐに知那ちゃんは村田と付き合いだして、その後はみんな知ってる通り、色んな男の子に告白してる。だから、そんな噂はすぐに消えたみたい」 「……それって、もしかしてそんな噂を消すためなんじゃ」 「いや、だから、そこからはもう想像の域だからさ。私には何とも言えない。もしも本当だとしたら私はそんなに軽くこの話はできないし」  それに、と吉川は続ける。 「その噂もね、その時知那ちゃんとすごく仲の良い子がいたんだって。その二人の仲の良さが、周りから見るとちょっと異常に見えた、みたいな話だったっぽいから。そんなの女同士の中では割とよくある話っていうか。実際距離感0の子っているしね」  そんな曖昧な状態から出たような噂だったから、村田付き合いだしてすぐにそんな噂は消えていたし、村田の耳に入るまで広がるようなこともなかった、ということだったらしい。そしてそのあと、知那は告白をし続けるようになった。 「……誰にでも告白する女、って、普通は近づかないからさ、そのあと孤立しちゃった理由は何となくわかっちゃうんだよね」 「でもほら、その、同性愛を噂されるほど仲良かった子がいるだろ」 「それがね……幼稚ないい方をすると、知那ちゃんを仲間はずれにしたグループにいるらしいよ」 「なんだそれ!」  同性愛を噂されるほど仲の良かった友達が、知那の敵になってると言うことだろうか。その子は友達とグループにいる。知那はクラスで今も孤立している。  それは知那の気持ちを考えると、あまりに辛い状況ではないか。 「同性愛の噂が嘘だろうと本当だろうと、知那ちゃんクラスにいるの辛いんじゃないかな。郁斗は味方になってあげてね」 「……吉川は、その噂を聞いても仲良くしてくれるのか?」 「うーん、そうだね……私は正直、同性愛に偏見はないと思ってる。でも、理解者とも言えない。それは、それが本当であって、知那ちゃんから聞いたら考える。とにかく噂だけで変わるつもりはないよ。あの子本当にいい子だし」 「そうか、ありがとう吉川」  話を教えてくれたことも含めて吉川に感謝を告げると、吉川はちょっと不思議そうな顔をして、それから噴き出した。 「郁斗、それもう彼氏じゃん」 「え! 違う! そんなつもりは……」  慌てる郁斗に吉川は笑いながら「じゃーねー! また何かあったらはなそー」と去って行った。  本当にいいやつだな、と改めて感謝した。
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