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吉川に話を聞いたあと、吉川の知那に対する態度が変わった。
相変わらず教室へ遊びに来る知那に対して歓迎していたが、もうひとつ踏み込むようになったように見えた。
それがはっきりわかったのは、知那の噂を聞いた3日後のことだった。
「知那ちゃん! 私今日部活なくて放課後みんなで遊びに行こうって話してたの、知那ちゃんも行かない?」
「えっ……」
教室に入るやいなや、吉川が知那を見つけて遊びに誘う。それを聞いて、知那は驚いたように固まってしまった。
「私、も? いいの……?」
吉川だけじゃなく、吉川と一緒に遊びに行くであろう周りの顔色を窺うように、知那はみんなの顔を恐る恐る見回す。
「もちろん、知那ちゃん来たら誘ってみようってもう話してたからね」
「いこーよー! っていうか連絡先交換しよ。場所とかあとで連絡するよ」
吉川の周りにいた三人の女子たちが、スマホを出して知那を見る。
郁斗は少し離れたところで、その様子を見ていた。
「あっでも郁斗たちは誘ってないんだ、それでもいい?」
「おいっ寧ろ俺らも誘えや」
その声に直哉が間髪入れずに反応する。
「今日は女子会だからだめー。今度ねー」
吉川とその周りの子たちが楽しそうに笑う。最初から郁斗たちを誘う気なんかないらしい。
郁斗は寧ろ、知那にとってはそのほうがいいのではないかと思う。
もういっそ、このクラスになれたらいいのに。
「えっちょっと知那ちゃん! どうしたの?」
吉川の慌てた声が聞こえて、郁斗も驚いてそちらを見る。
「ごめ……違うの……ごめんね、嬉しくて」
見ると知那は俯いて、泣き出してるようだった。郁斗のところから表情は見えなかったが、必死に涙をぬぐおうと顔を何度も手でこすっているのが見える。
「私……知ってるかもしれないけど、クラスでちょっと……上手く行ってなくて。だから、このクラスに遊びに来るの楽しくて……でもやっぱり、迷惑かもって思っちゃってたから……」
「迷惑じゃないよ! もうクラスメートみたいなもんじゃん。寧ろクラス替えてくれたらいいのにね」
吉川が知那の言葉をきっぱりと否定する。それに乗って、周りも「そうだよー」「ほんとだよね!」「勝手に決められるからねー」とそれぞれ同意していた。
それに対して知那の涙は止まるどころか一層溢れたようで、必死に涙をぬぐう。
誰かが「ちょっと誰か箱ティッシュ持ってない?」と言って、輪から外れて後ろの方にいたクラスメートが「あるよー!」と箱ティッシュ回されて行った。知那のもとで「好きなだけ使って!」と差し出され、知那は笑いながら「ありがとう」とティッシュを数枚手に取って涙を拭く。
「じゃ、今日は一緒に遊ぼ? いいよね?」
ティッシュで涙を拭く知那を覗き込むように吉川が聞き、知那が「ありがとう」と言いながら頷いた。
そしてさっき止まっていた「連絡先交換」が始まった。
郁斗はその様子をずっと見ていたところ吉川と目が合ったので「ありがと」と手と口パクで伝えると、吉川から「か・れ・し・か!」と口パクで返された。
一緒に見ていた陸がまったりと「良かったねぇ」と呟いた。
気分は彼氏というより、妹を守る兄に近いような気がしていた。
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