モテたい彼と依存する彼女

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 知那はそうして郁斗のクラスメートとどんどん仲良くなっていった。外で遊んだ日も相当楽しかったようで、翌日クラスに来て一緒に遊んだ吉川たちとその日のことを楽しそうに話していた。  もう、知那は当初の目的を忘れているのではないか、と郁斗は思う。当初の目的……郁斗とお菓子を交換すること、だ。 「知那ちゃん、郁斗離れしちゃったねぇ」  陸が楽しそうに笑う知那を見ながらつぶやく。 「うん、まあ、でも楽しそうだからいいんじゃないかな」  吉川から知那の噂を聞いてから特に、知那が友達と一緒にいるのを見るのは心底嬉しい、と思う。 「郁斗は毎日準備してるのにね」  そう言って陸は郁斗が持って来たおかしを食べる。 「いや、これは、別に……」  またそういうことがあったらすぐに渡せるように持ってきてるだけで、別に深い意味はない。どうせ郁斗自身もそうだし、持っていたら誰かが食べるのだから。 「俺、汐見さんは悪い子じゃないと思うし、郁斗が好きならいいと思ってるけど、郁斗を利用しただけならどうかと思う」  陸が不機嫌そうに言う。  それは郁斗自身も、薄々感じていたことだった。  吉川から知那の「噂」を聞いてからは、特に感じていた。郁斗だけじゃなく、もしかしたら最初の村田も、そのあとの告白してきた男たちも、知那は「噂」を消すためにしたことじゃないか、と。  今は、このクラスに友達を作るため? 本当にそうだろうか。  知那の涙や笑顔を見ると、そこまで強かに計画を立ててやれるほど、器用な子には見えなかった。 「そんなことはない、と、思うけど……」  少なくとも、陸が思うような「利用」ではないだろうと思う。  でも実際、吉川と仲良くなってから知那と郁斗は軽く挨拶と世間話をする程度で、ほとんど会話をしていなかった。  郁斗は、前から思っていたが今では全く知那から恋愛感情を抱かれているとは思っていない。 「あの約束はいつまで有効なんだろうね」  そうは言っても、郁斗から問いただすのはなにか違うような気がしていた。  ***  事件が起きたのは、そんな風に知那が郁斗のクラスと仲良くなっていた頃だった。  季節は春を過ぎて夏になろうとしていた。それに伴い、体育は外で体育先の競技を練習として行うことも多くなり、郁斗はその日四時間目の体育の授業が終わって片づけを運悪く先生に頼まれ、陸とともに使用したハードルを片付けていたときだった。  外の体育倉庫にハードルを片付け終えたとき、校舎裏から声が聞こえた。そこではしっかりとは聞こえなかったが、『知那』という名前が耳に入ってきた。陸と目が合い、陸もその単語を拾ったのがわかった。頷き合って、そっとその声に近づく。体育倉庫の壁に張り付いて、耳を澄ます。  知那が女子四人に囲まれていた。ドラマや漫画でよく見るシーンのようだった。 「A組に友達作って楽しそうだね? ほんと目障り」  悪意をたっぷり含ませて、いかに心を抉るかを試してるような、そんな言葉だった。 「もう色んな男に告るのやめたの? あんたほんと、なにがしたいの?」 「そんなA組がいいならC組から出てけばいいのに!」  知那は四人に囲まれて、黙って顔を伏せている。 「A組の子たちあんたの噂知らないのかな、教えてあげようかなー」 「私A組に友達いるし、言ってみよ」 「そうしなそうしな!」  きゃはは! と、ひどく耳障りな笑い声が響く。 「やめてよ!」  知那が声を上げる。 「はぁ? ずっと黙ってたくせに、それは嫌なんだ? そっかあいいこと聞いちゃった」 「ねぇ莉々華。莉々華が一番迷惑だったのにね?」  莉々華と呼ばれる子が三人に目を向けられる。そういえばその子は、一歩下がって一つも言葉を発していなかった。
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