モテたい彼と依存する彼女

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「おまえうるさい」  そんな郁斗の代わりに、陸が静かに、でもものを言わせない声で言う。  愛奈も周りも、謎の迫力を感じたのか一瞬怯んで口をつぐむ。  陸は理論を抜きに人を黙らせる天才だと、郁斗は思う。  事態を察した直哉が加勢する。 「あのさあ、前にも誰かに言った気がするけど、汐見さんってもう俺らの友達のなんだよね、郁斗もちろんだけど、友達バカにされたら俺らは怒るよ?」  直哉の煽りは逆効果だったようで、愛奈は再び勢いを取り戻した。 「はあ? なんなの。怒るって何するの? 殴りでもする? してみろよほら!」  愛奈は逆に直哉を煽ってくる。直哉は、ちょっと口は悪いけど、人を殴れるような奴じゃない。それを見越してるのだろう。そしてそれは、悔しいけれど当たっている。いくら男が女より力があるからと言って、暴力や力でねじ伏せることをしなければ、それは強みにはならない。もちろん、郁斗も陸もそうであるとわかってて愛奈は煽っている。その通りだ。  そう切り返されて「うむむ……」と馬鹿正直に困った表情をしてる直哉に、郁斗もこの場をどうするべきか考える。愛奈を口で責めることはできても、きっと通じないだろう。寧ろヒートアップするだけだ。 「うるさいって言ってんの。あのね、さっきまで俺と郁斗、あっちであんたらが汐見さんにしてたの撮影してたんだよね。声も入ってる。これ、どう見てもいじめの証拠なんだけど、内心とか推薦とか大丈夫? 今結構そういうの厳しいよ?」  そういって陸がスマホをかかげて見せる。 「はあ⁉ なにやってんだよ、盗撮だろそれ、消せよ!」 「消すわけないじゃん。さっさと去れよ」  慌てて陸のスマホを奪おうとする愛奈から届かないように陸はスマホ持って手を伸ばし、目いっぱい上に掲げる。  陸は175センチはある。その陸が精いっぱい上に伸ばしたら、160センチないくらいの愛奈どう頑張っても届かない。 「ほんとは撮ってないんだろ」 「さあ、どうだろうね。それに賭けてみる? 汐見さんにも郁斗にもなにもしないならこっちもなにもしないよ」  陸は顔色一つ変えずに淡々と答える。 「愛奈、やばいよ、もう行こうよ」 「私たちもうしないから!」   悔しそうな愛奈を余所目に、周りのほうが先に折れた。  愛奈の周りで知那に暴言を吐いていた二人が、半ば無理やり愛奈を引っ張って行く。 「汐見さん、大丈夫?」  直哉が取り残された知那に声を掛ける。 「……ありがとう……」  お礼を言う知那は、明らかに落ち込んでいた。当然だろう。 「莉々華……」  知那はまっすぐ前を見て名前を呼ぶ。そこには一人、愛奈について行かなかった子が残っていた。  郁斗も気づいてその子を見る。 「あっ……」  その子には見覚えがあった。陸も隣で、「あの時の子だね」と頷いていた。  いつか、村田が教室に乗り込んできた日。村田が捨て台詞を残して出て行った後、郁斗たちを見ていた、長いストレートの髪が目を引く、美人な女の子。目が合うとぺこりと一礼して去っていった。  莉々華と呼ばれたその子は、痛ましい表情をして何も言わずに佇んでいた。 「莉々華、行きなよ。私は大丈夫だから」 「……知那……ごめんね……私……」 「大丈夫だから! 郁斗くんたちがいるから!」  それは知那の印象とは違う、強くて激しいいい方だった。早く行け、と。  莉々華は、それを聞いてぐっと一度強く目をつぶり、愛奈たちが去って行ったほうに走って行った。
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