モテたい彼と依存する彼女

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「陸、動画ってほんとなのかよ」 「嘘だよ」 「マジか、だと思ったけど!」 「ほんとに撮っとけばよかったな」  直哉と陸が会話してるところを余所目に、郁斗は呆然としてる知那が気になって仕方がなかった。  その知那は、莉々華が去って行った方をじっと眺めてみた。 「汐見さん、大丈夫?」  そう声を掛けると、はっとしたように振り返る。 「ごめんね、本当にありがとう。恥ずかしいな、変なところ見られちゃった」  一生懸命笑顔を作ろうとする知那が、痛々しかった。 「いつもこんなことされてるの……?」 「ううん、さすがにこんなのははじめてで……びっくりしちゃった」  吉川に遊びに誘われて嬉しくて泣いていた知那は、この状況で弱々しい笑顔を見せる。  いくら笑顔を見せていても、語尾が震えていた。泣くのを我慢してるのだろう。 「汐見さん、昼休みだし、ちょっと休んでいけば? またどっかで一緒にお昼食べようよ」  陸が知那に声を掛ける。陸の『落ち着くまで一緒にいるよ』という優しい言葉だった。  結局また、人がいないところがいいよねということで、屋上に続く階段に向かった。今日は直哉も一緒だった。郁斗たちはそれぞれ教室に戻ってそれぞれお昼ご飯を取ってきたが、階段で落ち合った時知那は何も持っていなかった。教室にも戻っていなさそうだった。手に持ってるのはペットボトルの紅茶だけ。 「汐見さん、お昼は?」 「ちょっと食欲ないから……」  そんな知那を見て直哉が「先食べてて」と言って戻って行った。 「あの、ごめんね、本当に……ありがとう」  改めてお礼を言う知那。だけど声はか細く、消えてしまいそうだった。 「汐見さん、ありがとうはもらっておく。でもごめんねはどういうこと?」 「ちょ、陸」  陸がちょっと冷たい言い方をして、郁斗は驚く。でも陸はじっと知那を見つめていた。 「汐見さんはさ、俺らに言ってないことあるでしょ」 「……」  知那は黙って俯いている。  陸には、吉川から聞いた噂の話はしていなかった。信用していなわけではないが、確信もないただの噂を口にするのは憚られた、というもあるが、陸の知那への心証を悪くるするのが嫌だった。  噂を知らないはずの陸は、いったいなにを想像しているのだろう。 「ごめんなさい、言えない……いっぱいよくしてもらってるのに、ごめんなさい……」  たっぷりあった沈黙の末、絞り出すように知那は応えた。  それを聞いた陸は、ふう、と大きくため息をつく。それをみて、知那はもう一度「ごめんなさい」と言う。 「わかった、じゃあ質問を変える。汐見さんが今してることは、汐見さんのため? それとも、別の誰かのため? 俺は、郁斗を自分勝手な理由で利用してるなら汐見さんを許さないよ」  郁斗には陸の言ってる意味が分からなかったが、知那は何かを察したように目を見張って陸を見た。 「さっきの子?」  続けて問う陸に、またしばらく沈黙したあと、知那は観念したようにゆっくりと頷いた。 「ごめんなさい、それ以上は言えない……お願い、聞かないで……」
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