モテたい彼と依存する彼女

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「汐見さん、これ良かったら」  直哉が戻ってきた。急いで売店に行ってきたようで、人ごみの中勝ち取ったパンを二つ、知那に渡す。 「えっ……買ってきてくれたの?」 「好みがわかんなかったから、あまいのとしょっぱいの、食える?」  知那の手の中にはチョコデニッシュとコロッケパン。 「ありがとう……どっちも好き。あとでお金払うね」 「いいよ、いつもお菓子貰ってるし」  良かった、と言って直哉は笑う。さっきの会話を聞いていない直哉は、重かった空気を感じていなかった。  その直哉に郁斗は少し救われた気分になった。 「なんだ、お前らも食ってないの? 俺腹減ったから食うぞ」  そう言って、直哉は朝にコンビニで買ってきていた弁当を開ける。それに倣って、直哉と陸もそれぞれ食べ始める。  知那も、直哉にもらったチョコデニッシュを少しずつ食べ始めていた。食欲がないと言っていたけど、やっぱり教室に入るのが嫌だったのか、と郁斗は思う。そりゃそうだよな、教室にはいつもさっきの四人がいるんだから、と想像すると気が重くなった。 「松野となにかあったの? あいつ昔からキツいからなあ」  これも答えられないことの一つだろうか、と思いつつ、知那の顔を見ながら問う。 「……愛奈ちゃんは、一年生の頃仲良かったんだ、同じグループだったんだけどね」  郁斗は吉川が言っていた子を思い出す。一年の時に、グループでトラブルがあったようだったと。 「でも、なんか、私嫌われちゃって……グループから抜けて、ひとりでいるんだけど、愛奈ちゃんはどうしても私が気に入らないみたい」 「なんか、理由とかないの? それ」  陸が聞く。陸がほのめかした話は、この話とは無関係だったようだ。 「……私ね、よくわからないの。友達との距離感っていうか……そういうの。たぶん、人とずれてるんだと思う。今、吉川さんたちが受け入れてくれて、すごくすごく嬉しいけど、やっぱり少し怖くて。今日みたいなのを知られたら……」 「吉川? あいつは大丈夫だよ、寧ろ汐見さんを心配してたよ」  吉川の名前を聞いて、思わず郁斗は言う。女子全般苦手だった郁斗が唯一話しやすく、信頼できた相手だった。吉川が知那を裏切るとは考えられない。噂を聞いてもなお、寧ろ更に知那と仲良くしようとしてた。 「……私、もう友達なんていいって、思ってた。どうせ私には、もうできないって。でも、郁斗くんたちのクラスに行ったらみんな優しくて……それがすごく嬉しくて、少し調子乗っちゃってた。愛奈ちゃんは、自分以外のところで私が楽しんでるのも許せないみたいだし」  それは、どういう意味だろう。知那は自分が思ってる以上に思いつめているように感じた。  郁斗にはもう教室には行かない、という意味に聞こえた。 「吉川は心配してるよ、あいつの周りもそうだよ、もう来ないとか言うなよ?」 「だって……私だめなの、わからないの!」  知那が声を荒げる。  落ち着いて、と陸がなだめる。 「……女同士のグループって、私には難しいの。仲良くなりすぎても、一緒に行動しなくてもダメで、恋愛の話が盛り上がるから、私もと思って乗ってみたら、それもダメで……同じ子とずっと一緒にいても……わからないの。なにがダメなのか、なにに怒ってるのか……」  知那がとめどなく吐き出すように話す。  正直、郁斗たちには女子の友情はわからない。こればかりは陸も困った顔をしていたし、直哉に至っては『何を言ってるのかわからない』という顔をしていて、お手上げ状態だ。 「ごめん、俺ら女の子の友情はわかんない。わかんないけど、松野の言うことが正しいとは思わない。あいつが自分勝手なだけだと思うけど……この話、吉川にしてみてもいいか? あいつならもうちょっとちゃんとわかってくれると思う」  その言葉に知那ははっとした顔をして、「そうだよね、ごめん」と言って黙った。せっかく話してくれたのに、分かってあげられないことがもどかしい。 「郁斗、携帯なってる」  陸に言われてスマホを見ると、まさにその吉川からの通話だった。 「ごめん、ちょっと出るね」 「あ……私の方にも来てた」  つられてスマホを確認した知那がそういう。陸と直哉も「俺の方にも来てる」と。みんな気づかなかったが、このメンバー全員に連絡してるということは、なにかあったのか、と思いつつとりあえずなってるスマホに出る。 「吉川? どうした?」 「やっと出た! 何回鳴らしたと思ってるの! 今そこに知那ちゃんいる⁉ C組がちょっとヤバいことになってる、一緒に来て! 私も今C組の前にいる!」
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