モテたい彼と依存する彼女

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 吉川から聞いた事情を説明し、四人はC組に急いだ。教室に戻りたくなさそうだった知那も、状況が気になるようだった。  そもそも吉川は知那に伝えたかったようで、知那に連絡が取れなくて郁斗にかけて来たのだ。C組の騒ぎに、知那が無関係ではないのだろう。  階段を下りて曲がると自分たちの教室、A組がある。C組の前にはざわざわと中を覗く人たちが溢れていた。 「吉川!」  その中に吉川を見つけて郁斗は声を掛ける。 「知那ちゃん! 郁斗! こっち!」  吉川が郁斗たちを見つけて呼ぶ。中が見える位置に呼ぶように人を押しのけて、空間を作る。とても全員は行けそうになかったので、郁斗は知那の手を引いて無理やりに吉川の近くまで来た。押しのけた人たちから舌打ちや文句が出たが、今は気にしてられない。 「知那ちゃん、あの子たち、知那ちゃんが一緒にいたグループの子たちだよね?」  吉川がC組の、騒ぎの中心を指す。  そこにはついさっき知那を囲んだ四人がいた。ただし、愛奈と他二人に莉々華が対峙しているように見える。 「C組の友達に聞いたんだけど、さっきなんかあったんだって? それで、莉々華って子が、もう知那に構うのやめて! って叫んだんだって。そこから言い合いが始まって、あんな感じ。知那ちゃん、知っておいた方が良いと思って」  さっき莉々華が知那に謝って、去って行ったのを思い出す。あの表情は、ごめんという意味だけではなく、何かを決意していたのだろうか。  あのとき、知那は莉々華に単に嫌がらせをされてるだけなわけではないのだろうとは感じた。でも、知那がそれを話したくないように感じていた。  教室の中で莉々華が叫ぶように言う。 「知那は何も悪くない! 悪いのは私なの、私が黙ってるから……知那は……」 「なに? 莉々華がなにをしたの? 私たちに嘘ついてたってこと?」 「私……私が……私がそうなの……」 「莉々華! 言わなくていい!」  消え入りそうになってく莉々華声にかぶせるように叫びながら、知那が集団の中から教室へ飛び込むように入って行った。  突然の行動に郁斗は驚いたが、止める間もなかった。  知那は莉々華の前に出て、莉々華を抱きしめるように、松野達からかばうように背を向けた。 「知那……」 「莉々華は関係ないよ、ただ私が愛奈たちに嫌われてるだけ。たまに嫌がらせされてるだけ。それはもう、私と愛奈たちの問題だから、莉々華は関係ない」 「関係なくないよ!」  莉々華が叫ぶ。そうだろう、だって同じグループにいて、さっきみたいにいじめのような現場に、莉々華だっていつもいるのだろう。郁斗は現場を見ただけに、知那の気持ちがわからなかった。無関係とするには苦しい。 「なに、なんなのあんたら。莉々華、ずっと私たちといて、知那のこと悪く言ってたのに? 今更自分だけ加害者じゃないって? 調子よすぎない?」  愛奈の言葉に、知那は振り向いて愛奈に対峙する。 「莉々華は加害者じゃない! 私がそうしろって言ったの。愛奈たちについてた方がいいからって。でも私は莉々華からなにかされたことはない! やったのは愛奈たちじゃない!」 「そんな理屈通用するはずないでしょ!」  知那と愛奈が言い合ってる中、莉々華がそっとスマホを取り出した。 「さっきの……校舎裏でのことの証拠、ここにあるよ」  なにやらスマホから音が聞こえていた。 「ちょっと! なんのつもりよ」 「はっきり聞こえるでしょ、知那に対して何を言ってるか。声で誰かもわかる。さっき、A組の子が言ってたよね、今はそういうの厳しいよって。進学にも関わるんじゃない。さっきのその映像が本当にあるかどうかはわからないけど、私には確かにこの音声がある」  その音声は、郁斗たちのほうまでははっきり聞こえなかったが、なにやら言い合ってる雰囲気の声は聞こえて来た。  陸のははったりだったが、莉々華はポケットに忍ばせたスマホの動画撮影で起動して、音声だけ録っていたようだった。 「今まで細かい嫌がらせばっかりで、音にしても映像にしても証拠になりえなかった、やっと録れたの。自宅のPCにももう送ってる。だからもうやめて」 「そんなことしたら、あんただって同罪じゃない。さっきの映像があったら尚更ごまかせない!」 「そんなことわかってる! 覚悟の上だよ」  愛奈に向かって莉々華が叫ぶように言う。それまでとは違う、強い口調だった。
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