モテたい彼と依存する彼女

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 莉々華の強い口調から、一瞬クラスが静かになる。 「そうだよー愛奈ちょっとやりすぎ。知那ちゃんべつに悪い子じゃないじゃん」  C組の女の子が一言声を上げる。それが引き金になったのか、他の子からも声が続く。 「そうそう、うちらも知那ちゃん誘ったけど、愛奈に嫌がらせされるかもしれないからって断られたんだよ、そういうのわかってる?」 「あんまりひどいことになってないからと思ってたけど、その音声はヤバいよ。普通にいじめじゃん」  ざわざわと愛奈たちへの批判の声が大きくなる。愛奈は驚いた顔をして、固まっていた。クラスメートから大きな批判を浴びることは想定外だったのだろう。そんな空気を壊したのは、昼休みを終わらせるチャイムだった。  C組の扉の外に集まった外野は、その音につられて続きを見たそうにしつつも授業に遅れるわけにはいかないと減って行った。郁斗はどうしようか迷ったが、知那と莉々華が出てきたときに知那と目が合った。知那は郁斗を見て頷いたので、郁斗は「一緒に行こう」と解釈して一緒について行くことにした。気づくと吉川と陸、直哉も一緒だった。 「どこ行く?」 「体育館裏とか人いなさそうじゃない」  外に出るには制服姿だ、校内の人がいない場所が良かった。外も天気がいいし、陸の提案に乗って体育館裏を目指す。  先生たちが教室へ向かう中、「授業始まるぞー急げー」と声を掛けられて「はーい!」と応えて急ぐ。担任だとさすがにばれるから、会わないことを祈りながら。  体育館裏について、どこからも見えないことを確認する。体育館の裏口のところは段差になっていて、そこに座る。 「授業さぼったの何気に初めてだ」 「私もー」  と次々にいう直哉や吉川を見て、知那が「じゃあ、単位は大丈夫だね」とちょっとズレたことを言ってみんなが笑う。  知那と莉々華が高揚している気持ちを抑えられないように見えた。郁斗たちにもそれが伝染していた。それくらい、最後のC組の批判に、ここにいる全員が救われた気分になっていたのだろう。 「みんな、ありがとう。色々と、迷惑かけてごめんなさい」  知那が郁斗たちに向かって改まって謝罪する。 「なんか、解決しそうでよかったよ」  陸が言う。なんとなくだけど、陸は色々察していたのだと思う。郁斗にはわからなかったことも。 「話せるところだけ話すね。この子は山本 莉々華。一年の時、一番仲が良かった子」  莉々華が頭を下げる。 「前にも、教室来てたよね」  と郁斗が問うと 「やっぱり、バレてたか」  とバツの悪そうな顔をした。それに知那が「教室?」と聞くと、「後でね」、と莉々華が言う。  さっきまで固い顔をしていた莉々華は、凄く柔らかい表情をしていた。 「入学したころ、ちょっと話題になってたよね、モデルみたいな子がいるって」 「そう、それが莉々華」  吉川の言葉に、郁斗は陸に「知ってた?」と聞くと「全然」と返ってきた。直哉だけが「あ、名前聞いたことある」という。  莉々華がなにかを決意したように顔を上げて、言う。さっきの固い顔になっていた。 「知那、私言うね。今まで黙っててくれてありがとう。知那を守ってくれた人たちなら、信じられると思う」 「莉々華……大丈夫?」 「大丈夫、ここまで巻き込んでおいて、言えませんじゃ失礼だよね。ちゃんと話します。ちょっと長くなるけど聞いてくれるかな」
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