モテたい彼と依存する彼女

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「高校に入学して、一番最初に仲良くなったのが知那だった。私が仲良くなりたくて、話しかけに行ったの」  莉々華がみんなに説明をはじめる。それを聞きながら、知那は一年前に思いを馳せる。  当時知那は、誰と仲良くしたらいいか、合いそうな人たちは誰か、冷静にクラスを見渡していた。誰に声を掛けようか……と思った時に、声を掛けて来たのが莉々華だった。莉々華はクラスでも一際目立っていたが、まさか自分に声を掛けてくるとは思わず知那は一瞬固まった。席が近いわけでもなく、色んな人から声を掛けられているのにも関わらず知那のところへ来た莉々華に、知那は疑問を感じた。でも、純粋に声を掛けてくれるのは嬉しかった。誘われるままに一緒にお昼を食べたり、移動教室を共にするようになった。  そのうち、愛奈たちの三人グループに声を掛けられるようになった。いろんな場面であるグループ分けを考えると、五人くらいで固まるのも悪くないと思い、五人で一緒にいることが多くなった。 「愛奈は、明らかに莉々華と仲良くなりたがってた。だから声を掛けて来たのは私にもわかってた」  知那が続けると、吉川が「ああ、いるよね、そういうタイプ。とにかく目立つ子、可愛いこと一緒にいたがるって言う子」と納得してくれた。そう、まさに愛奈はそういうタイプだった。 「正直に言うとね、私は他の三人はどっちでもよかった。私は知那と仲良くなれればそれでよかった」 「それがね、私もそうだったの」  五人グループなのに、二人で一緒にいることが多かった。遊びに行くのも二人で行ってしまうことが大半で、愛奈がだんだんそれに不満を持っていたことも気づいていた。気づいていたけど、当時の二人にとっては些細なことだと思ってしまっていた。もっと言うと、ほかの三人とは莉々華と同じように仲良くなれるとは思っていなかった。  莉々華とは、最初は全然違うタイプなのに、なぜ? と思ったけど、不思議なほど気が合った。一緒にいるだけで、なにもなくても楽しい。全く疲れず、気も使わず、ずっと一緒にいたかった。そんな気持ちにさせられたのは初めてだった。  はたからきっと見ると不思議なくらい、二人は仲が良かったし、クラスメートからも「ほんとに仲いいねー」と声を掛けられることが多かった。それは好意的な言葉がほとんどだった。  知那も莉々華も、お互いが特別に仲が良いだけで、他のクラスメートと話さないわけではなかったし、特に問題ないと思っていた。 「私もね、悪かったの、愛奈に誘われても、莉々華がいないなら行かない、とか言ってたし……」  今思い返すと、本当に周りが見えていなかった。だけど、知那は莉々華といるのが楽しくて、他の三人といることがだんだん苦痛になって行った。愛奈たちといると、話題が大体恋愛と他人の悪口ばかり。当時恋愛もしていない知那にとって、提供する話題もなく、ただただ三人の話を聞くだけに終始していた。悪口に至っては、ほとんど聞いていないくらいだった。莉々華と二人でいるほうがよっぽど楽しい。二人でいると、なんともない日常の会話が尽きることがなかった。それは本当に不思議な感覚で、莉々華と出会えたことで、もう知那の高校生活は楽しいことでいっぱいだった。 「今思うとね、私は莉々華に依存してた。莉々華がいたらいいって、本当に思ってた。恋愛なんてひとつも興味がなかった」  ただ、莉々華に彼氏ができたらどうしよう、応援したいけど、もうこんな風に一緒にいられなくなるのかな、そんな不安がよぎった。そう思った時、自分の莉々華に対する気持ちは、もしかしたら普通じゃないのかも、と不安になる。莉々華はどうなんだろう、莉々華におかしいと思われたらどうしよう。  「汐見知那は同性愛者じゃないか」。そんな噂が出たのは、知那が莉々華への気持ちに不安を持ち始めたときだった。
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