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噂のもとは、すぐにわかった。愛奈たちだった。
それはある意味、愛奈から知那への決別の証でもあった。「あんたは仲間じゃない」という意思表示だ。
「あんなに仲が良いのは異常だ」と、愛奈たちは言う。
なぜ「二人が異常に仲が良い」という話なのに、莉々華ではなく知那なのか、それも明らかだった。愛奈たちは莉々華を手放す気はなかった。ただ、知那が邪魔だったのだ。
愛奈にとっては、莉々華は美人で一緒にいると人目を惹く、一緒にいて欲しい存在。知那は、自分たちの話にも誘いにも乗らず、莉々華しか見ていない、莉々華を独占する邪魔な存在。
「私は、愛奈に直接言われたの。知那は異常だって。異常なほどの執着心を持ってるから、一緒にいたら危険だよって」
ふふっと話しながら莉々華が笑う。知那は、これ以上先をどういう顔で聞いたらいいのかわからなかった。
「なにも見えてないんだなあって思った。執着してたのは、異常だったのは、私の方なのに」
知那は俯きながら首を横に振った。精一杯の主張だった。
***
そんな噂が流された日、知那は放課後、莉々華と一緒にいた。いつものことだった。カフェで話したり、公園で話したり、お互いの家に遊びに行ったり。買い物するのも、遊びに行くのもいつも二人だった。
その日は莉々華の家にいた。莉々華の家族は共働きで、夕飯の時間になるまでは帰ってこない。自然に莉々華の家に遊びに行くことも多くなっていた。家族とも、何度も顔を合わせていて、「いつも仲良くしてくれてありがとう」と莉々華の母親に言われることも一度だけではなかった。
莉々華は、中学の頃少しだけ友達関係でトラブったことがあり、学校へ行くのが苦痛だった時期があったという。だからか、知那の存在に莉々華の母親はとても安心して、知那の話をすると喜ぶらしい。
「私たち、一緒にいすぎなのかな、異常なのかなぁ……」
知那がそう言って莉々華を見ると、莉々華は俯いていた。その普通じゃない姿に、知那は焦った。肩が震えているように見えた。
「……莉々華?」
そういえば今日一日、莉々華は様子がおかしかった。噂のせいで元気がないだけだと思っていたけど、そうじゃなかったのかもしれない。
「莉々華、大丈夫?」
「知那、ごめんね」
そう言って顔を上げた莉々華は、顔が真っ白だった。
「私のせいで……あんな噂」
「何言ってるの、莉々華のせいじゃないよ! 私ね、最近、莉々華に彼氏ができたらどうしようって思ってたの、その気持ちはなんか、ちょっとおかしいのかなって思ってて、だから愛奈の言うことには反論できない自分もいたんだ」
少し前に悩んでいたことを、一気に話してしまった。この際だから、すっきりしたかった。
「私は莉々華がいればいいって思ってたから、莉々華といるのが一番楽しいし、それだけで高校生活良かったなあって思っちゃってて。ちょっと浮かれてたのかもしれない。愛奈たちにも、態度悪かったなって」
「知那、聞いて」
知那の言葉を遮って、莉々華が意を決したかのような声を上げる。
知那は黙って莉々華を見た。なにか、知那の思うより強い気持ちがあるのだと思った。それがなにかはわからなかったけど。
「私は知那が好きなの」
莉々華はゆっくりそう言って、知那を見た。
「え、うん、私も莉々華が好きだよ」
「そうじゃなくて!」
またも知那の言葉を遮る。振り切るような言葉。
気づくと莉々華は涙を浮かべていた。
「同性愛者は私。私はずっと、知那のことが、恋愛対象として好き」
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