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莉々華の突然の告白に、知那は固まった。
莉々華が、同性愛者? 知那のことが、好き?
なにも言葉が出なかった。
「……中学の時に、学校に行けなくなったことがあるの、そのときも、私が同性愛者だと言われたことが原因だった」
何も言えない知那に、莉々華はぽつりぽつりと言葉をつなぐ。
「そのときは、特に好きだったわけじゃない。だけど、そういう噂をされて、怖くて学校へ行けなくなった。バレるんじゃないかと思ったら……怖かった……」
それは噂というよりも、何気ない軽口のひとつで、なにも本気で言っていたわけではなかったらしい。だけど、それさえも莉々華を傷つけた。
「でも今回は、ただの噂じゃない。本当だから……私なのに……私のせいで、知那が……」
「莉々華のせいじゃない!」
それは咄嗟の出た言葉だった。莉々華が知那を好きだというその言葉を、しっかり理解したわけではなかった。それでも、この事態が莉々華のせいじゃないのは明らかだし、莉々華が悪いわけがない、と知那は思った。それと同時に、知那の莉々華への気持ちは恋愛ではなかったと、なぜか理解してしまった。莉々華の思うような、そんな思いつめた気もちとは違う。
あとあと考えると、知那は莉々華に依存していたのだと思う。莉々華という存在に救われて、独占したいという気持ちもあった。だけどそれは、恋愛感情ではない。今でもその気持ちの違いははっきりとはわからないけれど、知那は自分の気持ちとしてそう思う。
知那は考えたあげく、莉々華と離れる決心をした。
莉々華が同性愛者という事実があり、公表したくないと思ってる限り、その噂はなんとしても消さなきゃだめだと思った。「知那が」という噂であっても、いつどんなことから莉々華のほうにも矛先が向けられるかわからない。それだけは、避けないと行けないと思った。
そしてもう一つ、知那が莉々華と友達でいたいと思っても、莉々華の気持ちが友情ではないと知った今、一緒にいることはできないと思った。愛奈は莉々華がいればいいと思ってる。だったら、知那がグループを抜ければ済む話だ。知那の噂が流れても、ちゃんと否定すれば受け入れてくれるクラスメートもいるだろう。
村田というクラスメートが、知那のことを気に入ってるらしい、と噂に聞いたのはそう思っていた時だった。
そうか、彼氏を作れば、私たちが同性愛者だという噂なんてすぐに消えるだろう、と知那は思った。
それに、恋愛をしていれば、きっと友達との話もは弾むだろう。そう思って村田に告白した。
結果付き合うことになったのだが――
***
「本当に運の悪いことに、その時愛奈は村田が気になってたみたいで……」
愛奈たちの恋愛話を流して聞いていたせいもあり、愛奈の「気になる男の子」がコロコロ変わることもあり、知那はそれを理解していなかった。「同性愛」という噂は消えたが、愛奈の知那に対するあたりはどんどん強くなった。
莉々華の告白から以後、特にみんなの反応がなかったのでそのまま知那が説明を繋げていた。
ふと莉々華を見ると、信じられないような目でみんなを見ていた。どうしたの、と知那が問おうとすると、莉々華が震える声で聞いた。
「……私が同性愛者だって、聞こえてた?」
そう問うと、真っ先に吉川が頷いた。
「聞こえてたよ」
「驚かないの?」
「うーん、実はね、知那ちゃんにそういう噂があるっていうのはちょっと前に聞いてたの、郁斗にも話してあった。で、さっき知那ちゃんがかばってたのを見て、もしかしてこの話は莉々華ちゃんの話だったのかなって、ちょっと予想してたところがあってね」
知那は吉川の言葉に驚いた。吉川も郁斗も、その噂を知った上で今まで良くしてくれたのか。
「それに、もし知那ちゃんがそうだったとしたら? って自分で考えてみたんだけど、結論は変わらないなって思った。友達の恋愛がどうだって、友情は変わらない。私の結論はこれなので、大丈夫だよ、莉々華ちゃん」
吉川の言葉に、莉々華が必死に止めようとしていたであろう涙が零れていた。
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