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「郁斗はどう思う?」
吉川に突然ふられて郁斗は一瞬固まった。莉々華の告白にはもちろん驚いた。驚きはしたが、嫌悪感はなどは全く生まれなかった。そう、それだけでも伝えなきゃいけない、と口を開く。
「驚いた……けど、全然拒否感はないよ。寧ろ、いっぱい悩んで大変だっただろうなって思う。俺には気持ちわかるよなんて、簡単に言えないけど……だからと言って全く想像できないわけじゃない。辛いことがあるなら、力になりたいと、思うよ」
たどたどしくも伝わるように、と思いながらそう言うと、俯いて泣き続ける莉々華の隣にいる知那と目が合った。知那は、ありがとう、と言うように笑顔で頷く。
もしかしたらそれは、同性じゃないからかもしれない。でも、もしこれが同性だったとしても、思い悩む人間に対して否定などしたくない、と郁斗は思う。
知那は、大好きな親友からそう言われて、どれほど戸惑ったことだろう、と知那の対応にも思いいたる。自分なら、例えば陸にそう言われたとき、同じような対応ができただろうか。
「俺らも同じ、気持ちわかるよーとは言えないけどね」
陸が続き、直哉が隣で頷く。
莉々華はますます涙が止まらないようで、顔を上げられないでいる。知那がポケットからティッシュを差し出すと、頷くように受け取って涙を拭く。
「……ありがとう……本当にありがとう……」
そう言いながら、ゆっくり顔を上げる。
知那が「莉々華、ひどい顔ー!」と笑い、莉々華が「しょうがないじゃん!」とじゃれるように怒って見せる。
これから莉々華がクラスでどうするかはわからないけれど、なにかあったら支えられたらいいな、と郁斗は思う。知那の、一番大切な友達。
「私からも、ありがとう。私もね、もう色々限界だったの、みんながいてくれて本当に救われてる……」
知那が言う。そうだ、話が途中になってる。村田だ。
「そうそう、で、村田がどうしたの」
「……村田君には、悪いことしたなあって思ってるんだ」
そう知那はまたトーンを落とし、俯くように話す。
「いいよ、あんなやつ」
陸が隣で言い放つ。相当村田が嫌いだったようだ。その物言いに、郁斗は笑ってしまう。
「村田君は、私のことを気になっていたというのが本当だったみたいで、付き合うようにはなったんだけど……」
当事者の知那自身が、どうしても村田に恋愛感情を抱けなかったという。目的が「同性愛者だという噂を消すため」だったので、それも仕方がないことだろうが、村田にとってはたまったものではないだろう。
「でも、そんなの、申し訳なさ過ぎて、色んなドラマとか漫画とかを参考にしてみたら、しつこいって思われちゃって。でも結果的にそれが恋愛依存子みたいに思われたみたいで、それはそれで良かったんだけどね、友達にも恋愛にも依存する女って感じで、同性愛からは離れてくれたし。でも、どうしても村田君を受け入れられなくて……」
「あ、なんとなく、その先は大丈夫」
陸が言いにくそうにしてる知那を制した。おそらくその先は、村田が言ってたことに通じるのだろう。郁斗も正直に言うと聞きたくなかった。
ほっとしたような顔をして、知那は続ける。
「別れることになったんだけど、愛奈はやっぱりそれも気に入らなくて」
愛奈による嫌がらせのようなものは続いた。声を掛けてくれるクラスメートもいたが、愛奈がそのあとなにやら話してるのを見て、近づかない方が良いと判断した。知那は、それからずっとひとりでいたという。
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