モテたい彼と依存する彼女

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 村田とは色々……決定的なことがあって別れたが、愛奈による嫌がらせが止まなかったのですぐに次の人に告白することにした。そうすれば、「村田だけじゃない」と愛奈に印象付けることができるかと思ったのだ。それに、別れてすぐ告白する女を、きっと受け入れる人は少ないだろうとも思った。告白はするが、付き合わないようにするにはどうしたらいいだろうと考えた。  だから、告白して「村田と別れたばかりじゃない」と言われたときには「毎日一緒にいたいとか、常に連絡とりたいって言ったら重いって言われちゃって」と、敢えて引かれるようなことを口にしていた。結果、断られた。そして、すぐに次……そうしたらもう、そんなことを言わなくても断ってくるだろうと考えた。  結果、思った以上に知那の噂は広がり、知那から告白しても付き合おうとする男はいなかった。ただし、「誰でもいいなら俺と」と声を掛けてくる人はいたので、それを上手く断ることにも苦悩した。大体、なんで誰にでも告白するやつが自分はダメなんだ! と自分勝手に激怒される。できるだけ怒らせないように、できるだけ相手に引かせるようにしていたら、どんどん「汐見知那」というキャラクターが独り歩きしてしまった。結果、クラスメートでも声を掛けてくれる人はいなくなった。ただ、そのおかげで「同性愛者」という噂は完全に消えていた。 「郁斗はなんだったの?」  陸が問う。 「郁斗くんのときは……しばらくもういいかなって思ってた。もう噂もなくなったし、クラスメートや学年から変な子って見られてたし、しばらくは大丈夫かなって。でも……」 「私が悪かったの、私もそう思って、二年になって知那に声を掛けたら、愛奈が再発しちゃって……」  莉々華が声を掛けてくれたあと、愛奈がそれを気に入らなかったのか、「そういえば、あの子ってこんなうわさがあったよね」と言い出した。 「それで、考えたの。もう色んな人に告白したり、好きでもないのに付き合ったりするのも迷惑だし、私ももう、ひとりでいるのも辛かった。寂しかった……だから、今度はちゃんと好きになれそうな人を探そうって」  そう考えていた時に、知ったのが郁斗だった。  いつもさりげない優しさを持って他人に接していて、それを当然だと思ってる。  そして、「モテたい!」と言っていたのも知っていた。だったら、好きだと言っても迷惑にはならないのではないか。 「でも、郁斗くん戸惑ってたし、断られたら終わっちゃうから、逃げちゃった……」  そこからは、どうしたら郁斗が「断らないように」関係を続けるかに苦心した。郁斗は思った以上に優しくて、郁斗の周りも優しくて、いつからか本当に、終わらないように、終わってしまわないように……と願っていた。 「郁斗くんのことは、本当に恋愛感情まで行ってたかって聞かれたら、わかんないんだけど……私にはそれより莉々華が傷つかないこと、愛奈に加害されないことのほうが大切だったのは確かだし。でも、郁斗くんたちとA組のみんなには本当に救われた……終わらせたくなって、思った」  莉々華が、知那の孤立を気にしていたのは知っていた。告白の意図にも気づいていただろう。だからこそ、A組に友達ができたら、莉々華も安心するだろうと思った。受け入れてくれるA組のみんなに感謝しながら、甘えていた。これが自分にとっても莉々華にとっても良いことだと思った。  だけど、そう思うほどに怖くなる、莉々華に感じていた自分の依存的な考え方。莉々華が受け入れいてくれたから良かったけど、あれを他の子が受け入れてくれるとは思えない。郁斗のことを本気で好きになってしまったら、それこそそんな自分を抑えきれないかもしれない。吉川たちと仲良くなるのは嬉しかった。でも同時に、いつ自分がまた嫌われてしまうか、距離感を間違えてしまうかと考えると、怖かった。莉々華といた時間が楽しくて、幸せすぎて、それを求めてしまうのではないかと思うと、怖かった。 「で、今日のことがあって……結局愛奈は、私が楽しそうにしてるだけで気に入らないんだってわかって……もうなにしても無駄だと思った。もう、郁斗くんたちとも、A組に行くのもやめようと思ってた。そしたら、莉々華が……」  莉々華が、C組で愛奈たちにいい加減にしろと食って掛かったのだ。 「知那、ごめんね、全部私のせい。みんなにバレるのが、どうしても怖かった。でも決めたから。私はなにがあっても、例え全部バレても、知那と友達でいるから」  あのとき、莉々華はクラスで全部言うつもりだったのだ。止められて良かった、と知那は思う。これからどうなるかはわからないけど、隠したいと思ってることを自分から言う必要はないと知那は思う。だけど、全部自分が背負えばいいと思っていた、その気持ちが莉々華にとっては辛かったのかもしれない、と改めて思う。
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