モテたい彼と依存する彼女

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 郁斗はこれまでのことを整理しながら、少し複雑な気持ちで聞いていた。  吉川が知那と莉々華に寄り添うように言う。  「大丈夫だよ……ってそんな簡単なことじゃないかもしれないけど、私C組に友達がいるんだけどね、松野さんに対して、面倒だから言わないけど不満を持つ子は多いみたいだよ。さっきのクラスメートの反応がまさにそんな感じだったし」 「そうそう、それに山本さん音声録ってたんでしょ? 最高。ほんと俺も撮っとけばよかった」  陸が珍しく嬉しそうに言って、莉々華にハイタッチを求めてた。落ち込むように俯き気味だった莉々華が、顔を上げて手を翳す。そこに陸が手を合わせる。パチン、と心地いい音がする。同時に、莉々華は笑顔になった。案外この二人は気が合うんじゃないか、と郁斗はなんとなく物珍し気に見てしまう。 「私、友達より彼氏の方が良いのかなって思ったんだ」  知那が話し出す。郁斗はさっきの知那の話を聞いても、いまいち知那が自分に対してどう思ってるのかわからなかった。聞きたいような、聞くのが怖いような、複雑な気分だ。 「友達に依存するのはおかしなことなんだってわかった。友達はひとりじゃなくてもいいから、ひとりだけ特別すぎるのもおかしいし、ひとりじゃなくてもいいのに誰もいないのっていうのが、すごくつらかった。でも、恋愛だったら、彼氏に夢中になるのはおかしくないし、好きなのがひとりなのも当たり前だし、彼氏がいなくてもおかしくない。友達がいないのは……ちょっと変な目で見られる」  ……なるほど、そういう考えもあるのか、と郁斗が納得しかけたところに、陸が声を上げる。 「それって……」  と言って止まる。――それって、なんだ?  続きを言えと陸を見るが、陸は言いづらそうに郁斗を見ていた。 「うん、なんか、本当は彼氏より友達のほうが上って聞こえるな」  その空気を感じたのか、直哉が続けた。 「本当は恋愛じゃなくて友達が欲しいんじゃない?」  直哉が言ってしまったらもういいや、とばかりに陸が念押しするように言う。  そう言われて知那は一度大きく目を見開いて、ぱちりと瞬きをした。  そして、郁斗を一度見て、その視線を斜め上に向けた。 「……そうかも」  と応える。 「えっ!」  思わず郁斗は声を上げる。  陸と吉川が、気の毒そうに郁斗を見ていた。  直哉はにやにやと耳元で「どんまい」と言い、莉々華は心なしかほっとしたような表情だった。 「郁斗くんは私が想像してたよりもずっといい人で……今よりもっと仲良くなれたら嬉しいなと思う。友達として……」 「友達として……」 「友達から、ってことだな」  思わず繰り返す郁斗に、直哉がフォローする。恐る恐る知那の顔を見ると、ちょっと不思議そうな顔をしてから、笑顔で頷いた。  ……まあ、いいか、と郁斗は思う。正直、知那のことはいつの頃からか放っおけない存在になっていた。気づいてはいたが、気づないふりをしていた。知那にはまだまだ秘密がありそうだったから。  でも、すべてを聞いた今、やっぱりほっとけなくて、郁斗への告白も、恋愛じゃないかもしれないというのなら、友達として見守ろう、と思う。  が、やっぱりなにか悔しい。 「でもほら、郁斗くんだって最初知那に告白されて断ろうとしたんでしょ? だったらそれでいいじゃない!」  莉々華がそう言い、知那も「そうだったね……」と呟く。 「約束、ありがとう。もう断ってくれていいからね。本当にありがとう。郁斗くんたちがいなかったら、もう楽しい高校生活なんてないんだって諦めてた」  知那は郁斗に向かってありがとう、と何度も言う。 「でも、俺は今は……」 「知那の友達として、私もよろしくね、郁斗くん!」  郁斗の言葉を遮り、莉々華が笑う。そんな莉々華を見て嬉しそうにしている知那。  この子はわかってやってるな、と気づく。その上で、莉々華は郁斗に向けて「ごめんね」という表情をする。  なるほど、しばらくは莉々華にはかなわないだろう、と郁斗は覚悟した。  陸と直哉と吉川が、「頑張れ」と声を揃えたのが耳に入った。
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