モテたい彼と依存する彼女

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 郁斗はどうやって知那の告白を断ろうか、と考えていた。「これから知って」と言われたが、そもそも郁斗には知那と付き合うつもりもないし知那を知りたいとも思っていない。さくっと断って終わらせよう、そうしたらきっとすぐに他の人に告白して、噂もそっちでかき消されるだろう。  知那から渡された紙にはSNSのアカウントが書かれていた。おそらく連絡先のつもりで、ここから送ればやりとりができるのだろう。でも、なんとなく郁斗は知那のSNSを見る気がしなかった。だから、直接教室へ行って呼び出そうと考えてはいるのだが、思った以上に噂が広まっている。郁斗が知那の教室へ行くとまた騒がれるだろうな、と考えると「やっぱり次の休み時間に……」と後回しにしていた。  昼休みには「汐見さんと付き合うの?」「付き合わないよ!」というやりとりをクラスの4分の1くらいとし終わっていて、やっと聞かれなくなってきた。郁斗はうんざりして「教室以外で弁当食いたい……」と陸を誘って席を立った時、教室がざわついた。  振り返ると、知那がそこにいた。  驚いて恐る恐る何の用かと口を開こうとしたとき、知那は笑顔で自分の手を差し出した。 「郁斗くん、これあげる!」 「えっ」  思わず手を出すと知那は郁斗の手のひらに小さな包みを二つ落としていく。 「じゃあね!」  それだけでまた教室を出て行った。  郁斗の手のひらには、小さなチョコレートが二つ。 「なんだ……?」  呆然とする郁斗は「とりあえず出ようよ」と陸に促され、ざわざわしている教室を出た。  人が来ないところのほうがいいよな、と言って、屋上に向かう階段にふたりで座る。  屋上は立ち入り禁止なので、ここには人が滅多に来ない。誰にも見つかりたくない時には良い隠れ場所だった。 「ひとつあげる」  知那が渡してくれたチョコレートはふたつ。おそらく一緒にいた陸の分だろうと判断して、ひとつを陸に渡す。陸は「どうも」と受け取る。  弁当を開けて食べ始めようとしたとき、誰かが来る足音がする。  先生が屋上でも行くのかな、邪魔かな、と相手も見ずにちょっと端に避けようとしたとき、相手がはっと息をのむ気配がした。  見上げると、さっき教室でチョコを渡してくれた知那がいた。  知那と目が合うと、気まずそうな表情で慌てて背を向けて去ろうとした。 「あっ汐見さん!」  思わず郁斗は声を掛けた。去ろうとした知那は立ち止まるが、こちらを振り返らなかった。 「……チョコレートありがとう」  そういうと、知那は少しだけ振り返って、恥ずかしそうな笑顔を見せて、走り去っていった。  その知那の姿は、郁斗が持ってる汐見知那という女の子の印象とは全く違うものだった。 「弁当、持ってたね」  隣で陸が自分の弁当を開けて食べながらつぶやいた。  さっき教室で郁斗にチョコレートを渡したときには持っていなかった。あれから教室に戻って、弁当を持ってここに来たのだろう。恥ずかしそうに去っていく姿が、郁斗の脳裏に残った。 「どこで、食べるんだろう……」  思わずつぶやいた郁斗を、陸は何か言いたげな表情で見ていた。
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